【効果が出なければブランド構築じゃない。第5回<最終回>】
「ブランドをつくろう!」と思った時に、何から始めればいいのか悩む経営者は多い。おそらく、外部のさまざまなパートナーを検討するだろう。そこでブランディングのプロは何を考え、どのようなところに留意してブランドづくりを行っているのか。独自のビジネスモデルを持ち、成長意欲の高い企業群がクライアントに多い、株式会社パラドックスの執行役員ブランディング・プロデューサーで経営管理修士(MBA)、TCC会員でもある鈴木祐介氏にその極意を聴いた。
理解、実感、実践してもらう機会をどれだけつくれるか。
——理念を浸透させていくのに、朝礼での唱和などがありますが、有効な具体策はあるのでしょうか。
理念浸透の王道は、理解、実感、実践のフェーズに沿ってどう組み立てるかということだと思います。人は聴いただけでは、なかなか行動には移せません。実感したことで、身につき、行動に移せます。つまり、「やって見せて、やらせてみる」このプロセスがとても重要になります。これをいかに企業として「仕組み化」できるかが鍵。例えば、社内のSNSで理念を実践してよかった出来事、失敗した出来事を共有することで、頭で理解していたことが、体得できるようになっていきます。でも結局、人が人に伝えるのが一番強いんですよね。熱量を持って、一生懸命伝えることが最強です。でもすべてのマネージャーがぜんぶ同じように伝えるのは困難でしょう。だから、人事制度や評価制度や会社案内に理念の話を盛り込むなど、しかけをいくつもつくって、自然と理念と触れる機会を増やしていくのがいいように思います。
ゴミにしない技術に、どう共感してもらうか。
——今手がけている仕事で、具体的にブランド構築のプロセスを説明していただくことはできますでしょうか。
私のクライアント様で石坂産業という、埼玉県の入間にある産業廃棄物処理の会社があります。今から50年ほど前、高度経済成長の裏で埋め立てられる廃棄物の山を見て、「このままでは日本がダメになる」という想いが、創業のきっかけの会社です。以来、ずっとゴミ問題と向き合ってきました。工場では廃棄物のなんと95%を資源に生まれ変わらせており、雨水や太陽光の利用など、持続可能な工場運営もしています。不法投棄で荒れていた敷地内の森も、地域の協力も得ながら保全活動を続け、今ではJHEP認証AAAの里山へと再生させました。環境教育にも力を入れており、今では国内外から1万人が見学に訪れるほどです。その実態をどう表現し、言葉にするかメンバーと議論して、使命を「自然と共生する、つぎの暮らしをつくる」とし、創業の想いを大切にするため、創業者の言葉をスピリットの真ん中に据えました。スローガンは「自然と美しく生きる」。自社の宣言だけで終わるのではなく、共感していただける社会みんなの旗印になるような合言葉として開発しました。すでにフィンランドなど国を超えたコラボレーションが生まれようとしています。
形を持たず、みんなと仲良くなれるロゴという考え方。
——VI(ロゴ)がグラデーションというのは珍しいですよね。
石坂さまの活動が、世界中ひとりひとりの行動へと波紋のように広がり、Greenな世界がますます広がっていくことをイメージしています。理念に共感していただける世界中のみなさまと一緒になって、人と自然と技術の共生を実現していきたいとう思いから、あらゆる国や企業、人と共生できるように、相手に合わせて変化するロゴにしています。決まった形を持ち、他社と「差別化」するのがロゴ本来の常識とするなら、決まった形を持たず、みんなと仲間になれるロゴ、というのも石坂産業らしい、逆転の発想だと考えています。このような考え方を土台とし、HPやパンフレットなどの制作物も進めていきました。共感という意味では、採用でも少しづつ結果が現れています。環境問題に本気で向き合いたいと思っている学生が、京都大学をはじめ、さまざま大学から入社するようになりました。それはもちろん、同社の志やこれまで積み重ねてきた事実や事業展開があってこそですが、その努力や実態が正しく伝われば、やはりちゃんと結果はついてくるんだ、と思います。会社を目指す姿に成長させるために、成果の出るブランド構築をすること。それをこれからも心がけて、全力で頑張っていきたいと思います。
第4回 「その言葉は、企業の未来を切り拓くか。」
第3回 「心の底に想いがあるブランドは、きっとうまくいく。」
第2回 「理念を言語化することは、判断軸をつくり、覚悟を決めること。」
第1回 「ビジョンが決まったら、すぐに走り出せる準備ができているか。」
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
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