【ベッセルホテルのブランド論 第2回】
ベッセルホテルズを展開する、広島県福山市に本社を置くベッセル開発は現在(2017年1月)、全国にベッセルブランドのホテルを16店舗展開している。すでに22店舗まで出店が決定。2020年までに30店舗を目指し、アジアへの展開も見据えている。地方から世界へ。驚異の顧客満足と稼働率を誇るベッセルホテルのブランド論をベッセルホテル開発 代表取締役社長・瀬尾吉郎氏に聴いてみた。
聴き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
当たり前の活動が、ブランドを、売上を上げる。
——「家族に愛されるホテル」としての強みをどう考えていますか。
私たちのベッセルホテルとして目に見える強みは、「18歳以下の添い寝無料」、「朝食無料」、「駐車場無料」だと思っています。これもスリープイン時代と変わりません。家族だったら、何をしてもらったらうれしいか。その視点でしかないんです。最も重視するKPIはお客様満足度ですね。楽天トラベルやじゃらんで、お客様の評価がつきますが、それが現在、全店舗で4.0を上回っています。これは全店舗でというのはなかなかないこと。仮に3点台になってしまうと、お客様の声に応えられておらず、満足度が下がっている黄色信号だと社内では考えています。お客様の書き込みや客室内のアンケートには必ず経営陣も目を通すんです。そして、支配人がどう対応したか。そこまで報告させています。逆に対応していないと必ず問いただします。素早く、なんらかの対応策をしなければならない。社内ではそういう問題をリスト化し、それを愚直に1件1件対応し、さらに全国のホテルで共有していくという一連の流れを行っています。本当に地道です。ベッセルのブランド・イメージってとっても地味だと思います(笑)。ほとんどプロモーションしませんし。当たり前のことを、当たり前にできていないホテルはすぐに潰れてしまいます。
ベッセルの「肝」を貫くホテル再生。
——旅行業界がインバウンド需要などで活況になる中で、業績を伸ばすホテルとそうでないホテルの差がわかったような気がします。
最近、私たちが急速に出店を伸ばせている背景には、経営が立ち行かなくなったホテルを再生させていく、「リブランディング」の案件が増えたことも大きいと思っています。従来のホテル名の看板を降ろし、「ベッセルブランド」として生まれ変わらせるのです。ここでもやることは一緒です。ベッセルの生命線である「家族に愛されるホテル」を徹底します。お客様評価やアンケートをリスト化し、ひとつずつ潰していくんです。ダメになったホテルにはひとつ特徴があって、客室にアンケートを置いていないところがほとんど。また、スタッフもやる気がなく、自分たちの声がホテル経営に活かされるなんて、とうてい思っていない雰囲気なのです。しかし、ホテルはサービス業ですから、働いている人たちがいかにモチベーションを上げてもらえるかが重要。だから必ずヒアリングして、お客様から言われたことで、対応できていないことや現場視点で「これが必要だ」と思ったことをピックアップしてリスト化します。こうすると、Web上のお客様の声と、現場の声が両方あつまるので、あとはそれをまた1つずつ潰していけばいいんです。設備投資に関しても、例えば客室を数室潰してでも、お客様から要望が多いランドリーコーナーや自販機コーナーを設置したり、レストランを広げて朝食がゆったり食べられるようにしたりもしますね。そこには徹底的に投資します。
ブランドが拡張しても変わらない想い。
——ベッセル・ブランドには、ビジネスホテル型のベッセルインと郊外のベッセルホテル、そしてリゾート向けのベッセルホテルカンパーナがありますがそれぞれのブランドの住み分けについてはどう考えていますか。
まず基本となる思想は同じです。どれも「家族に愛される」ことを目指すことは変わりません。しかし、お客様によっては、なるべくリーズナブルに旅を済ませたい、という人もいれば、大浴場があって、もう少しゆったり休みたい、という人もいるし、滞在期間中、リゾート気分を存分に味わいたい、という需要もあるでしょう。同じ家族がターゲットとしても、細かくセグメントしていくとまた違う需要がそこにあると思うんです。私たちの想いとしては、お客様家族の嗜好やイベント、ライフステージによって使い分けてもらえればいいのではないかと思っています。決めていることは、一人5万円とか、10万円もするような、超高級ホテルは今後も絶対にやらないということです。あくまでふつうの家族の手の届く範囲で価格設定をし、ブランドも展開していきます。だから設備投資する場所も、客室に特化しているんです。福山駅前でニューキャッスルホテルをグループで運営していますが、そこみたいにレストランやブライダル、宴会など多角的に手を出していくことはしません。あくまで「家族が滞在する」ことの満足度を上げていくことに集中しています。
第3回 家族に愛されるホテルのために、やらないことを決める。
株式会社ベッセル開発 代表取締役社長 瀬尾吉郎
慶應義塾大学商学部卒業後、大手生命保険会社に入社後、2006年株式会社ベッセルへ。2010年、スリープインとの契約を解消し、「ベッセルホテル」ブランド立ち上げ責任者に。2016年6月、ベッセルホテル開発 代表取締役社長に就任。
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