学習院大学経済学部教授 青木幸弘 【選ばれるブランドになるために】
第3回<最終回>
ブランドとは何なのか。さまざまな解釈、考え方や方法論があるが、どういうアプローチを経ても、選ばれなければ「ブランド」にはなり得ない。消費者行動論の見地からマーケティングやブランド論を研究し、ブランドに関するさまざまな著書を持つ、学習院大学経済学部経営学科教授の青木幸弘氏に、選ばれるブランドとは何かを聴いた。
強いブランドには、コアになる顧客がいる。
——世の中には、顧客をつかめずに、たくさんのブランドが無くなっていきます。
ブランドの問題を考える時に難しいのは、本質を突き詰めようと考えると、どんどん抽象度が上がっていくことだと思います。本質論を語りながら、一方で現場で具体的な対策を取らないといけませんし、商品やサービスのジャンルごとに、成功法則のメカニズムも異なるでしょう。例えばブランドが、顧客の自己表現の手段になり、それを使うことへの「憧れ」がそこに存在する場合には、「シンボル」をつくるというのも1つの方法で、過去にはNIKEでマイケル・ジョーダンをメインキャラクターとして展開していました。あのマイケル・ジョーダンが使っている、ということでステータスができるわけです。もちろんこれは、顧客が何に価値を認めているか、ということでも設定のしかたが変わってきます。ブランドとしてどういう価値を出していくか、という設計図が必要なのは言うまでもありません。
社内へのビジョン浸透は、プロセスが一番大事。
——顧客に向けてブランドを打ち出していく一方で、社内の人たちもまた、その価値を認めないと、ブランドに一貫性が出ていかないという問題もあります。
ブランド論は、1990年代までは商品やサービスのブランディングの話が主流でしたが、2000年代になって、インターナルなブランド構築という考え方が出てきました。簡単に言えば、企業理念やブランドの考え方を社内で共有することが大切、ということです。ここで一番課題になるのは、決めたことを単に社員に共有しただけでは、浸透しない、ということ。理想的には、一緒に決めていくというプロセスが最も重要になっていきます。社員一人ひとりの腹にしっかり落として、理解、納得してもらった上で、各現場で実践してもらう、ということです。とはいえ、全社員を一気に巻き込んで決めていく、というのは現実的には難しいことです。拠点や社員数が多い会社などでは、社内キャンペーンを展開して、ブランドの理解浸透を進めていく会社もあります。外部へのコミュニケーションが統一されていたとしても、現場の営業や販売担当をはじめ、意識が統一されていなければ、どこかで、ブランドの一貫性が失われてしまうかもしれません。
経営者が自社の何がブランドなのか、を意識すべき。
——強いブランドづくりをするために、企業のトップが、心がけておくべきことは何でしょうか。
私たちは研究者ですから、その本質や成り立ちを考えるのが仕事ですが、企業のトップはブランド論を理解するというよりも、ブランドを日々意識していることが重要であると考えています。また、ブランド構築を行う場合には、多くの会社が外部の協力会社とパートナーシップ契約を結ぶでしょう。その際に、すべてお任せにするのではなく、自分たちの会社にとって、何がブランドで、そして自分たちのブランドはどのようなものなのか。そのくらいは、おぼろげながらでも考えておくことはとても重要なことだと思います。そしてそれを日々意識して行動することが、企業内のブランドへの意識を高め、強いブランドづくりに寄与していくのではないかと考えています。
(おわり)
第2回「誰のためのブランドか、明確でなければ、共感は生まれない。」
第1回「選択につながるイメージをつくれているか。」
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
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