【土田酒造のブランド論】第2回
群馬の山深い場所に、土田酒造はある。1907年創業。200年、300年続く蔵の多い中で、日本酒の世界では新しい部類に入る。しかし戦前にはすでに当時の日本酒品評会(現在の日本酒鑑評会)で何度も連続で入賞し、名誉賞を授与されるまでになっている。当時は今の数倍の酒蔵数。激戦だったことは計り知れない。現在でも積極的に海外賞にチャレンジし、数多くの受賞を果たしている。昔ながらの「生酛・山廃酵母」にこだわる酒造り。世界から評価を受けているその技術や根底にある考え方はなんなのか。6代目蔵元の土田氏に聴いた。
聞き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
蕎麦に合う日本酒が減ってしまった。
——蕎麦と合う日本酒という話を土田さんはおっしゃっているようですが、とても意外に感じました。蕎麦も和食ですよね。
よく時代劇で日本酒に蕎麦を合わせる場面があるじゃないですか。でも今の日本酒って蕎麦には合わないと思うんです。実際そう言う人も多いし、今蕎麦で日本酒の飲む人、あまりいないじゃないですか。それは蕎麦の汁には強烈なうまみがあるからだと思うんですね。日本酒がどうしても負けちゃうんです。でも生酛・山廃でつくった酒はとても合いますよ。以前、ラベルを隠していくつかの酒でブラインドテストをやったことがありますが、生酛・山廃でつくった酒がやっぱり蕎麦と合わせたときに美味しいという結果になりました。本来、蕎麦も和食ですから、合わないわけがないんですよね。日本酒はワインと違って、原料である米の良し悪しを技術によってカバーできます。この素晴らしさを積極的に海外に伝えていきたいですよね。そのためには生酛・山廃の昔ながらのやりかたを、現代の技術力で再現できれば、和食がこれだけ世界に広がっている今、とてもチャンスだと思っています。
「やっと終わった」ではなく「もう終わっちゃった」。
——土田さんも杜氏を経験されたそうですね。蔵元としてはかなり珍しいのではないでしょうか。
今は星野に任せていますが、以前はやっていました。だから酒造りの細かいところまでわかる蔵元だと思っています。私もゲームをつくっていましたから、モノづくりには興味があったんです。今の当時の星野はまだ30代。彼は酒造りを学び、酒造りがしたくて群馬の酒造を片っ端から電話して、たまたまたウチに電話があったときに、僕が取ったんですね。運が良かったと思います。酒造りは過酷な労働ですから、その年の仕込みが終わってしまうと、「やっと終わった」ってみんな言うんです。でも彼は違った。「もう終わっちゃった」って言うんですよね。それだけストイックだし、酒造りが大好き。山廃でやると雑菌も繁殖するので、雑味が出るリスクは高くなるのですが、そこを雑味を出さず、甘みを出すのが当時の技術。そういう意味で、彼の技が今の山廃でつくる酒造りを大きく支えています。実は結構有名な蔵の杜氏がウチに見学に来ることもあるんですよ。
KURA MASTERプラチナは、生酛・山廃の酒。
——海外賞も積極的にチャレンジして、今年は全米日本酒歓評会銀賞やフランスで開催されたKURA MASTERでもプラチナを受賞しています。
全米もKURA MASTERも菩提酛と山廃酛でつくった酒で受賞できたのが嬉しかったですね。菩提酛では人工の酵母を入れない酒ですから、自然の酵母でつくった酒で穫れたことが本当に嬉しかったですね。私たちはこの酒造りを突き詰めていますし、このやりかたで安定して美味しいお酒をつくれるように日々研究していますが、それでもいい酵母が降りてくるかどうかは、神ののみぞ知る領域だと思っています。待つということは、余分な菌も生まれるわけで、それが雑味につながってしまうんです。でも、余分な菌がなくなり酵母だけ残る。これが酒造りにおける奇跡だと思うんですね。ただその無くなっていった菌が、面白く複雑な味を出すんだと思います。そう考えれば、うまいけど、毎年違う味になる。今年出した味は、もう二度と出会えない。そんなかけがけのない酒を私たちはつくっていることになります。
(第3回へ続く)
土田祐士
株式会社土田酒造 代表取締役
専門学校を経てカプコンへ。ゲームづくりに従事する傍ら、休日に酒造りを手伝うようになり、28歳で蔵人へ。杜氏も経験し、現在は蔵元に。速醸での酒造りではなく、生酛系の山廃仕込みでの酒造りにこだわり国内外で数々の受賞を果たしている。
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