経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説|ブランド シンキング

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経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説

OEM企業が自社ブランドに挑む!ブランディング未経験だった担当者がブランド認知拡大に成功するまでの軌跡

ブランディングは長期的かつ総合的な取り組みです。ブランディングを構成する一つの要素「プロモーション」について考えてみても、販売促進は即時的ですが、ブランディングを目的にしたプロモーションの成果は、すぐには現れません。そのため、日々の仕事と誠実に取り組む方ほど、ブランディングの必要性はわかりながらも、後回しにしているのではないでしょうか?この傾向は、日本の中小企業には顕著なように感じます。

しかし、ブランディングは中小企業の生存戦略として欠かせないものになりつつあります。特に、日本のGDPの18.7%を占める製造業では、その傾向がうかがえます。海外生産が盛んになるにつれて、国内製造業の衰退が警鐘されて久しいように思います。実際に数字を見てみると、1999年から2016年にかけて中小の製造業は20%以上減少しました。一方、製造業1事業所あたりの付加価値額の推移を見ると、3億円から5億円へと伸びています。大企業による寡占化が進んでいるという悲観的な見方もできますが、技術やブランドで高い付加価値を生んでいる企業が生き残っているという希望も見えてきます。

 繰り返しになりますが、ブランディングは総合的な取り組み。売り上げはもちろんのこと、採用活動に対しても影響を及ぼします。製造業は人手が必要。ブランド力のある企業ほど採用が上手く進捗している現状があるのではないでしょうか。

 生き残りをかけて、今、製造業の中小企業はブランディングを必要としています。しかし、専一に「ものづくり」と向き合ってきた製造業の方々は、形の無い対象を扱う「ブランディング」とどう向き合えば良いのか分からず困っておられるのでは?

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▲丸和繊維工業のショールーム。独自技術「動体裁断」を武器に自社ブランドを展開。

 先日、日本ブランド経営学会サロンでご紹介した「丸和繊維工業株式会社」の事例は、悩める製造業にとっての良い先行事例となることでしょう。

 丸和繊維工業株式会社の伊藤常務が登壇したサロンイベントのレポート

そこで、OEM事業を拡大しながら、新しい事業の拡大を目指して、自社ファクトリーブランドに取り組んでいる丸和繊維工業株式会社でブランディングを担当している若手社員・後藤栄斗さんに、インタビューをしました。製造業を営む中小企業として、どのような人材が、ブランディングにおいて何を実行したのかについて光を当ててきました。「明日から実行できる活きたブランディングの知見」を中小企業、特に製造業の皆様に感じていただければ幸いです。

サービスエリアで15,000円のシャツを売りまくった!常識外れのブランド認知拡大施策とは?

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▲丸和繊維工業でブランディングを担当する後藤栄斗さん

 

――丸和繊維工業に入社する前には、どのようなお仕事をされていたのですか?

 

後藤 2015年に入社して2019年で5年目を迎えましたが、それまでは店舗でのアパレル販売代行会社でオーダースーツの販売を担当していました。その仕事のなかで、丸和繊維工業の『インダスタイル』を扱わせていただいたことが御縁となり、入社しました。

 実は『インダスタイル』ともっと関わりたい、もっと有名ブランドにしたいと思っていました。当時は、今ではメインとなっているシャツにしても、白と青だけのバリエーションでしたが、ストーリー性のある商品を軸に、良いブランドに育つ可能性を感じていたからです。

 「心からオススメできるものを売りたい」という思いを秘めていたのです。未経験のブランディングに挑戦するうえでの原動力です。

 

——中小企業がブランディングに取り組むことの難しさをどのように感じていますか?

 

後藤 ブランド認知を高めることが難しいと感じています。認知を高めるうえで、中小企業が出来ることには限りがあります。だからこそ、業界の常識にはない取り組みで認知を高めてきました。

例えば、当社のシャツは1着15,000円程度しますが、高速道路のサービスエリアで販売したことがあります。私の知る限り、あまり聞いたことのない売り方です。でも、お盆の3日間に3人がかりで必死になって、50枚ほど売り上げました。販売の経験から言っても、充分、大成功です。

 

――イベント的な販売方法を工夫されたとのことですが、どのような戦略が背景にはあったのでしょうか?

 

後藤 サービスエリアに集まる人の特性が、当社の商品に合っていると考えたことがあります。当社のシャツに採用されている技術「動体裁断」と「動体縫製」には、人体の動きを妨げない工夫があります。長時間の運転で筋肉が凝ってしまった方々に、一度商品に袖を通していただければ、これまでにない驚きの着心地を体感していただけるので高い確率で販売できると思ったのです。

 実は、サービスエリアの販売にあたって、戦術としては、「販売」が目的だとは、私は考えていませんでした。「こんなに良いものがある。知ってほしい。だから袖を通してほしい」という想いで、試着してもらうことを目的にしていました。だから、「買わなくても大丈夫ですよ」とお声がけすることもありました。サービスエリアで販売したことで、通常の店舗では出会えないお客様に、お買い上げしていただくことができました。

 当社の商品は、シャツを主役として語れるストーリーにあります。一度買った人は、その快適さや経緯を伝えていってくれると思っています。『インダスタイル』は、コミュニケーションが生まれるシャツなんです。だから、サービスエリアでの販売施策は、ブランド認知を高める施策としての側面も大きいと思っています。

 

3年間で有力販路を続々と開拓!成功体験を活かした次なる挑戦とは?

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――ブランドの認知を高める取り組みを地道に続けてきたことで、どのような効果が生まれましたか?

 

後藤 『インダスタイル』を取り扱う店舗は、私一人の実績ではありませんが、地道な取り組みの結果として増えた実感があります。百貨店はその代表例です。まだまだ発展途上のブランドにとって、開拓に時間のかかる業態ですが、直近3年間で主要都市の百貨店の取り扱いが10店ほど増えました。

百貨店の売り場の方には、まず『インダスタイル』の良さを体感してもらいました。コミュニケーションが生まれるシャツなので波及効果が望めるということを理解していただくと、熱意をもって販売してもらえたように感じています。

 

――丸和繊維工業のブランディングは徐々に進捗していると思うのですが、今のステップではどのような課題に直面していますか?

 

後藤 『インダスタイル』のブランディングで、手応えを得られるまでの一連の流れを経験しました。その経験を活かして、新たな自社ブランドの認知拡大が今の課題です。

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▲新ブランド「メンブラーナ」。疲れないドライビング体験をファッションで実現。

 今、ドライバーをターゲットにしたブランド『メンブラーナ』のブランディングに取り組んでいます。2019年に本格始動したばかりのブランドです。特に、百貨店以外を開拓中です。

 

――新たなブランディング戦略では、新たな展開はありますか?

 

後藤 『インダスタイル』の販売では、「一度袖を通す」という体験が感動を生み、感動が販売につながり、さらに認知拡大にもつながることを経験しました。そこで、『メンブラーナ』でも体験から販売につなげていくような施策を検討しています。ただ、当社だけのリソースでは限界があります。

 そのため、“ドライビング”という括りで、他社と共同でブランディングに取り組んでいます。例えば、革小物メーカーさんや、眼鏡メーカーさんと一緒になって、トークショーや運転講習会といった、これまでよりも少し大きなイベント開催を考えています。

 『メンブラーナ』には、運転することのドキドキやワクワクの体験を最大限感じてもらえるように縫製技術的な工夫を加えています。そもそも、ファッションには着用している人自身の気持ちを変える力があると思っています。『メンブラーナ』は、そういったファッションの力を世に伝えられるツールのひとつになると考えています。

 

――後藤さんは既存ブランドの認知拡大から、新規ブランドの認知定着までご経験されてきたと思います。少し抽象的な問ですが、ブランディングで大事なことは、何だと感じられていますか?

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後藤 「想い」だと思います。丸和繊維工業は、これまでブランディングに取り組んだことも無いOEMの製造業。手探り状態でブランディングと向き合ってきました。何にでも挑戦できる楽しさもありましたが、何でも自分で考えて実行しなくてはならない大変さもありました。

 それでもブランディングを実践できている理由は、私が自社ブランドを好きだからです。好きだから大変なことも継続できています。大変なことを継続できるからこそ、ブランド認知拡大を進められているのだと思います。

 私は、「買ってください」とお願いする販売はしないんです。「こんな良い物があるから、それを知ってほしいんです」という想いを伝えています。それは結局、自社の物の良さを信じられているからですね。

 中小企業のブランディングで「お金」や「人手」よりも必要な要素とは?

 「お金」も「人手」も等身大に、ブランディングを実行してきた丸和繊維工業の事例に勇気づけられる中小企業の方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 後藤さんのインタビューを分析すると、後藤さんの知恵と労力を惜しまない個人的特性も目立ちますが、その背後には、中小企業ならではの「任せる力」が見えてきました。組織によるお堅い意志決定ではなく、未経験でもあっても、自社商品を信じる力のある人材にブランディングを任せること。これが、中小企業がブランディングと向き合ううえでの、ひとつの基礎的な解答として考えられます。

 後藤さんのインタビューは「ブランディングで大切なことは”想い”」で締めくくられました。実は、中小企業のブランディングでは「お金」や「手間」が制約条件ではないという重要なことを教えてくれるインタビューでした。

長尾和也

 
長尾 和也

コンテンツクリエイター。トレンドとアクセス動向を踏まえた記事コンテンツを、30社以上の企業オウンドメディアにて発信。誌面では月刊文藝春秋にて無記名の観光コラムを掲載中。「世の中をもっとチャレンジングに」という思いからクラウドファンディングに関心をもち、クラウドファンディングライターとして邁進している。早稲田大学大学院商学研究科マーケティング・コミュニケーション専攻修了。修士論文は「消費者の独自性欲求」。




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