【サムライインキュベートのブランド論対談 第3回】
サムライインキュベートは、日本のベンチャーキャピタルと言われる中でも異色の存在だ。「できるできないではなく、やるかやらないかで世界を変える」という考え方のもと、覚悟と志に共感したスタートアップに支援を行っている。現在はイスラエルなどワールドワイドにも展開をしている榊原氏に、BRAND THINKINGで連載も持つチカイケ氏がサムライインキュベートの理念や今後の展開について聴いた。
自分はなぜ生きているのかを問う。
チカイケ:榊原さんの目標って何ですか。
榊原:会社つくって3年目だったかなあ。「渋沢栄一目指してる?」って数人に言われたんです。彼は実業家で元祖インキュベーター。たしか521社だったかな。この社数は超えたいですよね。
チカイケ:榊原さんはとても具体的に物事を考えますよね。
榊原:具体的な目標がないと頑張れないからですよ(笑)。そして目立ちたがり屋。でも目立つならいいことをして目立ちたいと思います。
チカイケ:起業家には具体的にどんなアドバイスをするんですか?
榊原:直接的なアドバイスもあるけど、やっぱり「なぜ生きているのか」というような自分の使命について考えてもらいますね。例えば自分の祖父は、戦争で亡くなっています。まだその時うちの父はお腹の中。戦争で無念ながら亡くなっていった祖父の見えない影響が僕にはあって、勝手に、世界から戦争を無くすという使命を自分が背負っていると思っています。だから今もイスラエルに行くんじゃないかとさえ思っているんです。
チカイケ:使命に気づいた経営者は強いですよね。
榊原:そうなんです。僕のアドバイスに関して「そんな方向に行ってリスクありませんかね?」と言う経営者もいる。でも「あなたがリスクをとらなかったら、今度は子どもがリスクに弱くなっちゃうよ」と言います。失敗しまくって、バカ話しているくらいのほうが自分も子どもも強くなるはずですよ。
経営者とは「ありがとう」を数倍言う人生。
チカイケ:考えようによっては人生がそもそもリスクだらけですもんね。
榊原:生きていて、一番うれしい言葉って「ありがとう」だと思うんです。起業して経営者になるってことは「ありがとう」を数倍言う人生になると思うんですよね。
チカイケ:ひとりでは経営はできませんもんね。
榊原:僕らベンチャーキャピタルは集めたお金があるので、上から目線になりがちですが、投資先の経営者と同じ目線で見ることを常に心がけています。
チカイケ:榊原さんの投資判断は本当に人ありきなんですね。
榊原:ゼロからイチをつくりだす覚悟がどれだけあるのかを見たいですし、ステークホルダーにどれだけ恩返しする気持ちがあるのかを見ています。そして、自分たちが投資を受けて恩返しすることで、さらに未来の起業家を生み出すという気持ちでいてほしい。将来を考えられる起業家は強いです。
チカイケ:調査して「これだけ市場があるんです」というのは響かない?
榊原:そうですね(笑)。調査からゼロ→イチにできるものはないと思っています。
誰もやらないことをするから大きなチャンスになる。
チカイケ:アーリーステージの企業に投資するって怖くないですか?
榊原:恐怖感は常にあります。でも人を信じるということです。そして信じてもらうためには、相手が一番しんどいときに投資します。「サムライインキュベートに還元したい」という力を信じたいんです。
チカイケ:こういう経歴がある人が成功しやすいというのはあるんですか。
榊原:僕はそういうのは一切見ないです。過去の経歴なんか関係ないと思っています。
チカイケ:つまりは榊原さんも一緒にリスクとるってことですよね。
榊原:はい。僕も起業家と一緒に覚悟を決めるってことです。僕は今の仕事が楽しくてしょうがない。僕らは志ある様々なシード期の企業に投資をして、将来的に100万人の雇用を生み出すことをゴールにしていますが、そのためには投資社数も必要。社数が増えれば手間も増えます。けどシード期の一番大変なスタートアップを応援するんです。それが逆に僕らにとっては大きなチャンスだと考えています。
スタートアップの段階から理念は整理すべき。
チカイケ:スタートアップだと、どうしてもビジネスモデルを固めることに中心になりがちですよね。
榊原:ビジョンとかミッションを全然決めてない人が多いですよね。だから採用でも自分たちの軸がないから困るし、オフィスや名刺もレベルが低くなりがち。理念って自分たちの軸だから、これは早い時期に決めたほうがいいと思います。
チカイケ:サムライインキュベートのオフィスはとてもオシャレですよね。
榊原:弊社のオフィスに来たら物事が生み出せそうな雰囲気づくり含めてデザインは意識しています。日本の四季を表すデザインを壁に描いていたり、照明は紙コップを組み合わせて作っています。コワーキングスペースも、できてからはいどうぞ、ではなく、入居する企業と一緒になってつくったんです。
チカイケ:それも経営者へのアドバイスと言うか、メンタリングになっているんでしょうね。
榊原:インキュベーターって育てるのが仕事ですからね。でも子どもを育てることに比べたら簡単だと思う。子育ては本当に大変ですから(笑)!
(おわり)
第2回「誰もやっていないことをする。だからブルーオーシャンを切り開ける。」
第1回「サムライの心を持って、 世界で一番のインキュベーターになる。」
聴き手:チカイケ秀夫 構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
株式会社サムライインキュベート代表取締役 榊原健太郎(写真左)
関西大学社会学部卒業後、日本光電へ入社。その後、アクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)、電通ワンダーマンなど。グロービス経営大学院大学でMBA取得。2008年、株式会社サムライインキュベート設立。経営者の志と覚悟に共感したシード期と言われるごく初期のスタートアップから支援を行う。2014年5月からイスラエルに移住し、日本初のインキュベーターとしてブランチを設立。ワールドワイドな展開を視野に入れている。
パーソナル・ベンチャー・キャピタル 代表 チカイケ秀夫(写真右)
デザイナーの経験を経て、GMOインターネットグループで新規事業などさまざまな事業を経験。2015年よりパーソナル・ベンチャー・キャピタルの代表として活動開始。スタートアップ企業にブランディングを広めることを使命に、数多くのサポートを行っている。さまざまな企業のチーフ・ブランディング・オフィサー(CBO)を務める。
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