グローバルに強いブランドは、高次の理念を持っている。
世界は、理念の共有へ。
田中洋・編『ブランド戦略全書』(2014・有斐閣)はおそらく日本のマーケティング、ブランド研究の第一人者たちが執筆した最新の書籍です。その中の第2章「ブランドと経営学の接合」(阿久津聡・一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)で、こんなことが書かれています。これまでの「上質な体験」や「世界観の提供」、「体験の消費」を主とした「エクスペリエンス・エコノミー」と対象的に、最近ではSNSの台頭により、「仲間とソーシャルに楽しむ一体感」、「未完成品を仲間と創り、育てる楽しみ」、「創り育てたものの仲間意識による消費」という「ソーシャルエコノミー」の時代に入ったと指摘しています。その上で、ブランド経営への示唆として、「価値観の共鳴」がポイントになるとし、有名なAppleやハーレーの事例を挙げています。また、P&Gのグローバル・マーケティング責任者などを務めたステンゲルが「グローバルに強いブランドの多くが高次の理念を持っている」と指摘していることも紹介しています。
経営理念の重要性は、古くはドラッカーの指摘に始まり、日本では1995年の「ビジョナリー・カンパニー」で広く紹介されます。しかしこのようなことがなくても、古く、長く続いてきた企業には、「社是」や「社訓」があり、「なぜそれがあるのか」はすでに知られていなくても、遵守してきた歴史もあります。しかし一方で、理念はあるけれども、浸透していない企業や浸透していなくても、売上がちゃんと伸びている企業は、経営理念の浸透に及び腰になる傾向もあります。業績指標を上げる起点が、ビジョン(理念)である、という調査報告は、いくつもある中で(それを知らない人も多いですが)、ニワトリが先か、卵が先かではありませんが、経営理念の開発、浸透の遅さ、つまり売上という結果が出るまでの遅さを危惧するという原因があるように思います。
SNSによりコミュニティが形成されやすくなった現在では、消費者の横のつながりが以前より強固になっています。口コミで広がる可能性も飛躍的に増えました。そのような中で、企業が顧客にどんな価値を与え、そしてどんな未来をつくっていくのか、という「高次の理念」を定めることで、共感を得られやすくなる。つまりとても簡単に言うと、「好かれる企業」になる、ということを示していると考えられます。これは単に売上だけの話ではなく、採用活動にも関わってくることです。また、「高次の理念」は未来に向けて、どんな企業であるか、を規定するものですから、常に未来志向です。未来志向であるがゆえに、理念浸透は永劫続かなくてはなりません。理念経営をすることは、社内にどんな力でも折れない太い幹をつくるようなものです。だとすれば、時間がかかるのは当然で、止まることはないはずです。理念の力を本気で信じるか、信じないか。経営者の決断次第で、ブランドを考えることは、経営を考えることと同義であると、言うことができます。
文:BRAND THINKING編集部
- アイデンティティがないから、ブランドにならない。
- クレドはいくつがベストか。
- すべての経営判断を、理念につなげられるか。
- だからブランド構築はうまくいかない。
- どう言うかより、何を言うか。
- なぜブランディングで売上が上がるのか。
- なぜブランドにビジョンが必要なのか。
- なぜプロモーションとブランディングを混同するのか。
- なぜ一貫性を保つのは難しいのか。
- ビジョナリー・カンパニーより先んじた稲盛和夫の哲学。
- ビジョンがない、ターゲット設定もない戦略に未来はない。
- ビジョンが決まったら、すぐに走り出せる準備ができているか。
- ブランドが消える理由。
- ブランドづくりにおいての、大切にしておきたい考え。
- ブランドとブランド構築の違い。
- ブランドは、何をマネジメントするべきなのか。
- ブランドは売上に貢献するか。その1
- ブランドは売上に貢献するか。その2
- ブランドは想いによってつくられる。
- ブランドは意志を持って成長させろ。
- ブランドは日々のオペレーションでできていく。
- 広告だけの差別化に意味はない。
- 広告より組織行動の方が重要。
- 強みを土台に、一貫性のある組織を生む原則がある。
- 理念と戦略と現場。どれが一番大切か。
- 組織の価値観で差別化できたら強い。
- 自社の何がブランドなのか意識すること。それが強いブランドをつくる。
- 良い「企業理念」ってあるの?って言うか何でつくる必要があるの?
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