古くからあるターゲティングの議論。
ターゲットを明確化しようとしない日本企業。
ターゲットを明確化するというは、マーケティングの理論では定石のように扱われています。しかし、実際の企業の現場を見ると、ターゲットが明確化されているということはほとんどありません。商品ブランドの現場でも、採用の現場でも、まったく同じです。
商品の現場であれば、「20代でバリバリ働く女性」や「うちは多くの人に使ってほしいのであえて絞っていない」などの言葉が出てくることもありますし、採用の現場であれば、「元気で素直な学生」、「同じ業界でない人のほうが先入観がなくていいです」などの言葉が出てくることがあります。
ターゲティングの重要性は、マーケティングの世界では、STP理論という名前でよく知られています。
STPとは、
S:Segment(=市場の特定)
T:Targeting(=ターゲットは誰なのか)
P:Positioning(=製品を市場のどこに位置づけるか)
ということなのですが、
この3つを特定することがマーケティング理論の柱といっても過言ではないわけです。
このSTPについて最初に言及したのが、1956年ウェンディル・スミス。そして1967年にコトラーが「マーケティング・マネジメント」の中で、特に強調して説明していたのがこのSTP理論でした。
かなり古くからターゲティングの重要性は説かれていたにも関わらず、多くの日本企業はターゲットを明確化しようとしない嫌いがあります。ここに理論と実践の乖離があるのですが、それには、ひとつの仮説として、そもそも「なんのためにターゲットを絞るのか」という「目的」が伝わっていな、ということがあるのではないか、と思うのです。
ターゲットを明確化するといいことがある2つ。
ターゲットを明確化するのは何のためなのでしょうか。それに明確に答えている本は、ほとんどありません。私自身の場合、以下のように、その効果とともに目的を伝えています。
1,従業員の説明や企業のマーケティング・コミュニケーションの言葉やデザインを際立たせるため。
2,際立つことで、市場で目立ち、結果多くのファンを獲得できるため。
ターゲットをフォーカスすることで、「誰になにを伝えればいいのか」が明確になります。ペルソナまで明確化したターゲティングをすれば、さらにその言葉やデザインは際立っていきます。そうなると、そのブランドでしか言えない言葉やデザインができあがることになり、市場において唯一無二の存在になっていくことができると考えています。
ターゲティングを行うことで、表現が際立つことで、結果、市場全体として、独自性を持った存在として目立ちます。目立つと、その独特の世界観が多くの人に受け止められるので、賛同し、ファンになる人が増えるという論理です。
ブランド論的に言えば、ただターゲットを絞って、そこに向かってフォーカスした表現を投げかけるのではまだ足りず、「そのブランドのビジョンをどう伝えていくか」、ということを考えることが、とても重要になります。
いい例は、NIKEやAppleでしょう。とことんスポーツをしている人にターゲットを絞ったからこそ、NIKEはマイケル・ジョーダンを起用したわけですし、パソコンで人と違った世界をつくりたいという強烈な動機を絶対そういう人が市場にいるはずだと思ったからこそ、iMacが登場したときの、「Think Different」という強烈なメッセージに繋がったのだと思います。
ターゲットを明確化しなければ、漠然とした多くの人たちにブランドのメッセージを投げかけなければならなくなります。そうなると、プロモーションがたくさんできる大手がますます有利になります。
ターゲットを明確化しないことは、自らそのレッドオーシャンに身を投げることと同じことなのです。
※参考文献
三谷宏治『経営戦略全史』(2013)
酒井光雄・編著/武田雅之・著『マーケティング大全』(2014)
文:BRAND THINKING編集部/むすび株式会社 代表取締役 深澤 了
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