表現の差別化は必要。どのレベルでそれを表現するか。
商品の「違い」を忘れた「インパクト勝負」は無意味。
マーケティングにおいて、プロモーションにおける影響の大きさは言うまでもありません。マス媒体を中心に大きな予算が動き、したがって、多くの人たちの目に触れるからです。目に触れれば、認知度が上がり、商品を手にとってもらえるチャンスになります。
ブランド論的に見れば、そこから商品を手に取り、品質が高ければ、2度、3度の購買をするかもしれない。そうなれば、「ロイヤリティ」が高まっているということで、リピード購買につながるでしょう。その商品のことが好きになればなるほど、ユーザーはその商品のことを調べるので、今度は「ブランド連想」が高まっていくという構図です。
1,認知 2,知覚品質 3,ロイヤリティ 4,ブランド連想。これはアーカーが提示したブランド・エクイティです。ブランドを構成する大きな4つの資産でした。
つまり、ものすごく簡単に言えば、品質とそれを伝えるための表現とが一体となった時に、「ブランド」になる、ということです。
しかし、プロモーションが認知獲得のために、品質にもともとある差別化要因を汲まずに(汲めずに)表現を行えば、単なるインパクトのある表現にとどまってしまうということがよくあります。それが強すぎれば「炎上」という結果を招くことも考えられます。
広告がよりインパクトを出すために、キャッチコピーやデザイン、CMでのストーリー、タレントの使用などあらゆる方策が練られますが、品質が低い商品であれば、一度手にとっても、リピート(=ロイヤリティ)購買はありませんので、そこでブランドにはなり得ないでしょう。しかし、今の日本で、それほど品質の低い商品はありません。むしろ品質に差異がないので、よりインパクトのある広告をすることで、手にとってもらう回数を増やそうという思惑がそこにあります。
この思惑こそが、表現と品質の差異を生む大きな原因になっているのです。表現によりインパクトをもたせようとする結果、つまり先に書いた炎上という最悪の結果を招くこともあるのですが、もう一つ、表現をつくる側にも、品質本来にある差異、それは数値で測れるものの他に、その商品が生まれた背景、価値観、歴史などのストーリー上の「違い」をしっかりと表現そのものに込めるということを忘れてしまっているように思えます。
広告表現での差別化はもちろん必要です。それが認知を生むことも確かです。しかし、あまりにそのブランド本来の違いからかけはなれた表現では、ブランドが資産として効率的に積み上がっていくのを阻害するおそれさえあるということなのです。
ブランドの「違い」を踏まえたすぐれた表現とは。
まず、この2作からご覧ください。
アマゾンのCMもAppleのCMもとっても評判になったので、すでにご存じの方もいるかもしれません。このCMがいいのはハートウォーミングなストーリーとレベルの高い演出、ということができると思いますが、ブランド論的な見地から言いますと、「ブランド連想」を豊かにする広告と言えると思います。アマゾンのCMも、AppleのCMも、商品・サービスの機能にストーリーがしっかり紐付いていて、この商品・サービスがあることで、どれだけの価値があるのか、というところから、CMが企画されています。アマゾンは、犬にかぶせる用の商品ほど、細分化された商品量がそこにある、というアピールにもなっていますし、Appleは、これを使うことでどんなに豊かな生活ができるか、ということの提示を行っています。
商品特性に近いところでCMができているので、だから、アマゾンPrimeやiPhoneのブランド連想が「強くて、好ましくて、ユニーク」になりやすいと言えます。それでいて「泣ける」と言われるほどのストーリーがそこに展開しているから、愛されるのです。
しかし一方で、日本の広告の多くは、相変わらず「認知」至上主義です。だから一見、いいストーリーのCMがあったとしても、商品・サービスにしっかり紐付いていないものがとにかく多いと思います。作品としていいCMだったとしても、ブランド論的にはいいとは言えません。なぜならば、認知至上主義の中のデキのいいCMは、表現での差別化のみに終わってしまうので、一過性の話題で終わることも多く、そのブランドの「強くて、好ましくて、ユニーク」な連想がつくられにくくなってしまうのです。最近の日本の広告ではどうでしょうか。もう数年前からのシリーズで続いていますが、オロナインH軟膏のキャンペーンがいい例だと思います。「知ったつもりにならないでリアルにさわってみたい日本の100」というキャンペーンです。
以前は「知ったつもりにならないで、リアルに体験した方がいい日本の100」というキャンペーンの続編。好評だったのか続編シリーズができたカタチでしょうか。
触るという行為には擦り傷、切り傷がつきもの。「触るって、冒険」というキャッチフレーズとともに、ブランド連想を「強くて、好ましくて、ユニーク」にするとてもいいキャンペーンだと思います。怪我の時は、オロナインH軟膏というイメージも醸成されやすいと思います。
どんなブランドにも、必ず「違い」がある。そういう眼で、ブランドを育てていく必要があるのではないでしょうか。伝える側がそれを信じられなければ、ブランドは決して育ちません。
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