【ブランドは見えない組織風土でつくられる 第4回】
「従業員はブランドを演じる存在になれ」とは、今日のブランド論を体系立てたアーカー氏が書いた言葉だ。その後、広告を中心とするプロモーションやブランド・コミュニケーションの研究や実践は進んだものの、肝心な組織風土や組織行動に関しての研究は、ブランドの見地からは進んでいるとは言い難い。今回は、企業理念が組織風土をつくる、と考える組織人事戦略コンサルタントでビジネス・ブレークスルー大学准教授、三城雄児氏に聴いた。
世界を揺るがすブランドをつくるために。
——企業が成長するには、「How」や「What」のマネジメントも重要のように思います。
まったくその通りで、企業が大きくなるには、目標管理でも「How」や「what」でマネジメントをする必要が出てきます。どのように、なにをするのか、を明確に決められるということは、ある程度「標準化」できている部分があるはずで、だからこそ企業は大きくなっていきます。一般的に日本の大企業は事務処理能力が高く、「How」や「what」の面で優秀です。しかし、今の日本企業で起きているのは、そういう育てられ方をした人が中間管理職になり、「Why」でマネジメントをすることを知らない世代がいるということです。例えばどんな大企業もベンチャーの時代がありました。その頃は「こういう世界をつくろう」と話していたはずです。日本の大企業から成功する新規事業が出ないのは、ここに原因があるような気がしています。大企業には大企業の強みがあって、ベンチャーにはベンチャーにしかない文化があります。そこの交流がもっと進めば、日本から世界を揺るがすブランドが出てくるかもしれません。
一貫性のある組織をつくる4つの要素。
——目標設定以外で、いい組織をつくるための要素はどのようなものなのでしょうか。
私はいい組織をつくるための要素は4つあると思います。まず大前提として、リーダー、とくに経営者ですが、その組織で一番情熱があること。これがなければ物事が進みません。これは前提とも言えます。その上で、まずは「人づくり」。先にもお話しましたが、自分たちが叶えたい未来を伝えていける、社内の宣教師を増やしていく必要があります。そして「ツールづくり」。キリスト教で言えば「聖書」にあたるものです。ストーリーがあると人に伝わりやすくなります。頭ではわかることも、心ではわからない、ということが人にはあると思います。直感に訴えるコンテンツが必要です。4つ目は「プロセスづくり」。企業では、人事評価制度やいい取組事例の共有などがこれに当たります。これらの流れで、企業内の考え方である理念が浸透していくことになるのです。議論すらされなくなるくらいまで、それぞれのメンバーに成功体験を積んでもらうことが大切です。
組織風土を変えるチェンジ・マネジメントの原則。
——成功体験を積んでもらうために、必要な考え方はありますか。
上記で言及した流れをする場合、大事なことが1つあります。それが、「チェンジ・マネジメント」の原則を踏まえるということです。「認知→習得→自覚→行動」の流れを意識しなければなりません。「認知」とは、これをやることが大事だと知ることです。ここを踏まえずに、やり方を教える、つまり「習得」に行ってしまうと、なぜそうなるのか?と人は疑問を持ってしまいます。そして、自分がやるんだ、という「自覚」を促して、「行動」に移っていきます。そして大切なのは、褒めること。認められると、人はそれを求めます。このサイクルを繰り返すことで、「当たり前」の文化が出来上がっていきます。例えば、トヨタの「カイゼン」は有名な話ですが、工場見学に行くと、ものすごい量のカイゼン数が箱に投函されているのがわかります。しかし他の企業で同じように箱をおいて、カイゼンを入れてください、といっても数が集まりません。それはトヨタがカイゼンを出すことがすでに無意識の「当たり前」の文化になっているからです。無意識の文化を、一度抽出して言語化し、それを無意識になるまで落とし込む。それが自社の強みを認識し、強い組織をつくるためのプロセスなのです。
(おわり)
聴き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
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