【いい組織が、いいブランドをつくる 第4回】
ブランド構築の命は一貫性。社外へのコミュニケーションだけではなく、インナーブランディングとも言われる、組織内の理解や意思統一もとても重要になってくる。経営者自身や社員が、どのような意識になることで、一貫性のあるいい「チーム」ができていくのか。ゲシュタルト療法を組織開発に活かしてイノベーションが生まれるチームづくりを支援する企画経営アカデミー代表取締役・大槻貴志氏に聴いた。
サラリーマン脳の多い会社では新しい発想は出にくい。
——新たな事業アイデアを生み出せる組織とはどんな特徴があるのでしょう。
結局、ビジネスは人が生み出していきます。組織開発とはそこにいる人の人間の考え方、マインドを変えていくということです。それは脳の働き自体を変えていくことで、誰でも新しいアイデアを生み出せるようになります。脳の働きを大きく2つに分類していて、新しいアイデアでなく、既存事業をルーチン通りに回すのが得意な脳を「サラリーマン脳」と呼んでいます。これは極端に言えば、定年になって退職金や年金をもらうことがゴールになる脳。安全、安心のためにムダなことをしない。失敗をしないように考える脳です。この脳は失敗を避けようとするため、根回しや調整能力が高くなります。一方、どんどん新しいことにチャレンジしていく思考回路を持った脳を「イノベーション脳」としています。自分が今までやったことがないことに取り組んだり、新市場や新商品開発にどんどん挑む脳です。だから何か自分に新たなしごとを振られた場合、悩むのは前者。すぐに「やります」と飛びつくのは後者の脳です。もちろん、会社には前者のような人も必要です。しかし全員前者では、新しいチャレンジが生まれなくなります。
心と体が自然と動くものは何か?を鍛える。
——ではイノベーション脳はどうすれば鍛えられるのでしょう。
人は本当に「やりたい」と思ったことには、心や体が自然に反応します。「一人ひとりの心の底が動くようなものは何か」を経営者や上司が把握することです。その仕事のチャンスを与えることで、自然とその人は動いてきます。また社員の「感じる力」を鍛えることも大事です。例えば営業であれば、目の前の顧客が何を欲しているのか「感じる」力をつけなければ、相手にヒットする提案をすることができません。それにはまず、自分の観察から始めることです。例えば、何かを見たり聴いたりしたときに、体がどう反応したか。眼が重たくなった、頭がズーンとなった、心臓がドキドキしたなど、注意深くメモしていくといいでしょう。そうすると人がそうなったときに気づけるようになります。すると仮説ができ、その仮設をもとに提案できます。正しければいいし、間違っていればまた違った仮説にトライすればいいのです。こうして社員一人ひとりが、本当に自分の心から動く組織がつくれると、イノベーションあふれる組織ができあがります。すると、自然と離職率も下がっていきます。それは、社員が「自分がこの組織に受け入れられている安心感」を感じることができからです。辞めるということは、自分の気持ちが受け入れられないと感じているのです。だから経営者は、自分の会社の理念と、その人のやりたいことを結びつけて、仕事のチャンスをつくっていくことが求められるのです。
採用の場で、経営者が理念を語っているか。
——一貫性のある組織では、自社の理念に共感した人を採用することも大切です。
採用の現場で経営者が理念を語っていないことはかなり多いように感じます。自分のつくった事業や今していることを語ることも重要ですが、同じ方向を向いた組織をつくるためには、同じ価値観の人を採用することもとても重要です。むすび株式会社が行った今年の内定者アンケートで、理念共感している人が7割、その中で理念共感が志望動機に影響あると答えた人が94.5%と出ていますが、応募する側はHPや採用パンフレットなどで理念に注目している結果とも言えます。しかし文章からは、読んだ人によってあらゆる解釈が可能となり、採用プロセスの中でしっかりと伝えていかないと入社した後でのギャップを生み、離職につながりかねません。なぜこの理念なのか、その背景やストーリーを経営者がまずは語ること。例えば「自立した社会をつくりたい」という理念を掲げていても、「誰もがフリーランスとしてスキルを身につけられる社会」をつくりたいのか、「一人ひとりがしっかり意見を持って、発表できる社会」ではまったくニュアンスも背景も違います。一貫した組織づくりのために、採用の重要性を経営者自身がまずは理解し、採用の現場で実践することが、いい組織をつくる第一歩なのです。
(おわり)
聴き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
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