【いい組織が、いいブランドをつくる 第3回】
ブランド構築の命は一貫性。社外へのコミュニケーションだけではなく、インナーブランディングとも言われる、組織内の理解や意思統一もとても重要になってくる。経営者自身や社員が、どのような意識になることで、一貫性のあるいい「チーム」ができていくのか。ゲシュタルト療法を組織開発に活かしてイノベーションが生まれるチームづくりを支援する企画経営アカデミー代表取締役・大槻貴志氏に聴いた。
心からやりたいと思える理念か?
——組織の一貫性を出すために、一番大切なことは何なのでしょうか。
例えば「社員を幸せにします」という理念がったとします。でもなぜ経営者がそう思ったか、ということです。「社員が幸せだといい会社だから」と答える経営者もいますが、その文脈で語られることは極めて一般的なことで、経営者自身の具体的な経験やストーリーがないので、社員には伝わりにくいと思います。やはり、経営者や経営陣が自分の言葉で理念を語れるようになることが、理念を浸透させる第一歩で、そのためには自分たちが心から目指せる理念をつくることが理想です。理念を作るときも例えば「世の中、ダイバーシティーの流れだからとか」、「今は日本だけじゃ食っていけない」とか、だから大事だよね、ということになりがちなんだけど、それは理念をつくるときの条件に過ぎない。心からそうしたい、ということではないので、社員にも伝わっていきません。言っていることと、やっていることが不一致になることを、管理職や経営者自身が思っている以上に社員はよく見ています。だから、まずは理念が経営者自身の言葉で語られるようにすること。そのためには経営陣が本音でまずは話せるようにならないといけませんね。これが社内への理念浸透の第一歩になるのです。
理念が決まったら、社長と会社の考えを分けるべき。
——特に創業者が社長だと、社内への影響力も大きいですよね。
創業経営者の影響力は大きいと思います。創業者は自分で会社をつくってますから理念も語りやすい。しかしそれゆえ、会社と自分が一緒になってしまいがちです。理念を作る時は、思いっきり感情を込めるべきです。しかし、理念は企業経営の判断基準ですから、一旦理念を決めたら、感情を入れ過ぎず、データ収集と理性的な判断で経営を行っていくことで、組織に一貫性が出ていきます。理念だけではメシが食えないと言って、どうしても目先の営業に目を奪われがちになりますが、実はそうした軸がブレてしまう企業の方が、判断に迷いが出てしまうので、経営スピードは遅くなります。しかし理念を元に経営を行っている会社は、理念という判断基準がありますから、結果として意思決定のスピードが早まるのです。経営者にアドバイスするときに、「判断する」と「迷う」を分けたほうがいいですよ、という話をします。前者はデータを整理して組み立てていく、後者はずっとその場にいることです。多くの人は悩んでいると答えが見つかると勘違いします。悩むくらいならデータを取りに行けばいい。正しいかどうか、仮説を持って実験すべきなんですよ。
一丸となる組織は、飲み会でつくられていく。
——理念ができた後、組織が同じ方向を向くために、何から始めるべきなんでしょうか。
まず経営者が自分の言葉で理念を語る。これを粘り強く行い、幹部から自分の言葉で話せるようになるということが大事です。私が最初に入ったキヤノンでは、社長が語ったビジョンを元に、本部長クラスの経営陣がそれに基づいて計画を作り、部下に話します。それを部長、課長、係長と繰り返していくことで、自分の言葉でビジョンを語れるようなしくみをつくっていました。そうして一貫性を出していくのです。あと実は大事なのが、社長自身が社員と一緒に飲みに行くこと。ここで普段言えないことや仕事とは関係ない話をすることで、心の溝が埋まっていきます。本音が言いやすくなる雰囲気が醸成されるんです。例えば、京セラ創業者の稲盛さんは社内飲み会の「コンパ」に積極的で、社内にコンパ部屋をつくっていました。これは組織開発の観点から言えば、極めて理にかなった方法です。一方、うまくいってない組織には、社内で情報格差があります。例えば、上司が「お前たちは知らなくていい」と経営にまつわる情報を隠して、命令を出す。そうすると「よくわからないけど『はい』と言っておこう」という心理が働きます。そうなると、本当に納得して動けないから、彼に部下ができると同じことをします。するとますます、一貫性のある組織にはほど遠くなってしまうのです。
(第4回は3/8水に公開します)
聴き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
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