2019年7月25日、hoops link tokyo(渋谷)にて日本ブランド経営学会サロンの第12回が開催されました。
日本ブランド経営学会は、ブランディングの視点から日本の企業経営を変えていくという志をもった学びの集まりです。なかでも活動を特徴づけるサロン活動には、「ブランディング」という共通の関心事をテーマに社会人が集まり、創発的な取り組みのきっかけの場にもなっています。
サロンでは、ブランディングの現場に携わる方をスピーカーとして招き、明日からでも役立てる生きたブランディングの知恵を参加者で共有します。
今回のテーマは、「教育×ブランディング」です。少子高齢化のなかで入学者募集に課題を抱える大学のブランディングに携わった2名の方に、ご登壇いただきました。
一般企業とは異なるロジックで、意思決定がなされる大学組織のブランディングに対して会場の期待は高まります。
龍谷大学の事例:学生の体験を変えた!
一人目のスピーカーは、ブランドの格付けも行うグローバルブランディング企業のインターブランド社にて、クリエイティブディレクターを務めている松尾任人さん。
お話いただいたのは、京都の私立大学・龍谷大学のブランディング事例です。
大学でも企業と同じように、改革を行うときには、まず現状把握から始められます。松尾さんは、ブランディングにあたっての事前調査結果から読み取れた龍谷大学の課題について、次のように語ります。
松尾「龍谷大学は歴史のある非常に良い大学です。ユニークな切り口がたくさんある。けれども、世の中に伝わっているものは、”伝統”や”真面目”といったありきたりのイメージばかり。しかも残念ながら、今の高校生たちはこれらのイメージを求めていません」
『中身は充実しているのに”伝統”や”真面目”というありきたり』という課題に、共感される企業の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
充実した中身の平均値をとっていけば、ありきたりなブランディングになってしまうのは、当然といえば当然のこと。そこで、学内での議論を積み重ね、ブランディングのゴール設定を「学生が主体的に活躍する大学」に定める決断をします。
松尾「ブランディングでは、ビジュアル面が大切な役割を担うことは言うまでもありませんが、”学生の様子”という雰囲気を伝える場合においては、非常にビジュアル戦略が果たす役割は大きかったと言えます」
松尾さんは、高校生の生活動線をとらえて、積極的なコミュニケーション策を打ち出します。例えば電車広告で、卒業生を素人モデルに起用し、「You, Unlimited.(君は無限だ)」という卒業後の応援メッセージを送るキャンペーンは大変評判でした。「広告制作物から学生を巻き込むことで、学生を動かして学内を変えていく狙いもあった」と広告の背景について松尾さんは語ります。
松尾さんの施策の要点は、まさに「ブランディングプロセスに当事者を巻き込む」という点にあったと言えます。素人モデルとしての起用だけでなく、ブランディング戦略の策定には学生を巻き込み、広告制作物に限らず、「学生が主体的に活躍している学内」を作り出していったのです。たとえば、学食や学内ポータルサイトが学生目線でリニュアールされていきました。「イメージを変えたのではありません。学生の体験を変えて、学生を変えたのです」と松尾さんは施策の狙いを振り返ります。
これらを含む一連の施策の結果、翌年の大学サイトランキングで龍谷大学は順位を大きく上げて、2位にランクインします。さらに、報道件数では関西圏において上位に食い込み、話題の的となったことが示されました。
龍谷大学のブランディングは今も続いています。最初は、理事会と教授会にわかれていることに「ブランディングを一貫させるのに苦労しました」と松尾さんは語る一方で、次のように事態が好転しているとのこと。
松尾「大学という組織で、最初は、なかなか難しかったブランディングの一貫性が、ひとつ成功している様子を示せると、そこに周りが足並みをそろえるようになりました。私たちからの働きかけなしに、戦略やデザインに統一感が生まれるというシーンは想定外でした」
充実した中身に反して、ありきたりのブランディングにお悩みの老舗企業の方なら、「足並みがそろわない」ことを要因としてなかなかブランディングの一歩を踏み出せない方もいるのでは?
今回の龍谷大学の事例が示すように、もし、最初は足並みがそろっていなくても、一点突破する覚悟をもって局所的にでもブランディングに取り組んでみると状況が一気に変わるかもしれません。「論より証拠」という諺は、実績を積み上げてきた老舗企業ならでは。あなたの勇気が老舗企業のブランディングを変えるのです。
愛知東邦大学の事例:お知らせは求められていない!
2人目のスピーカーとして登壇したのは、愛知東邦大学にて広報課長としてブランディングの改革に取り組んだ三輪哲也さん。
三輪さんは、「大学からの”お知らせ”を求める高校生は少数派であることに気がつきました」と語ります。この気づきが、学生募集に課題を抱えていた同大学のブランディング変えるきっかけになりました。
三輪「ブランディングでは、”お知らせ”ではなく、情報の受け手である高校生が求めているコトの提供を意識しました。情報を伝えるのではなく、情報を感じてもらうようにしたのです」
『現代人は情報過多』というのは、かなり前から盛んに言われています。現代は、タダでも要らない情報は要らない時代だとも言えるでしょう。たしかに、情報を発信すれば職務遂行の責は果たされますが、KPIに重きを置いている方なら、肝に銘じておきたい事項です。
高校生が求めているものとして、三輪さんはハイレベルな「教育プログラム」を高校生に体験してもらい、愛知東邦大学の教育の質を感じてもらう施策に打って出ます。
三輪「自分ブランディング・プログラムを実施しました。これは、授業と自習ツールを組み合わせた教育プログラムです。今の高校生は、主体性と向上心についてコンプレックスを感じていることが多い。この課題をなんとかしたい、と学生募集の目的は一旦忘れて、目の前の高校生に集中しました」
愛知東邦大学が中部地方の人気私立大学へとの成長を遂げられた背景には、担当者の真摯な顧客目線があったのです。ブランディングに取り組む前の愛知東邦大学は、いわば顧客との縁が切れてしまっている状態にありました。あらたに縁を紡ぎ直すには、企業活動に限らず生活でもそうであるように「相手が喜ぶものをギブする姿勢」が有効です。高校生が求めるものをギブした結果、顧客との縁が再生し、そこを突破口にブランドが再生した好事例だと言えるでしょう。
ブランディングの行き詰まりを感じている企業にとって、目の前の数字では無く、目の前の顧客に集中すべき、という重要な示唆が含まれる発表でした。
あなたの志がブランディングのひとつの答えです。
日本ブランド経営学会サロンでは、自薦他薦のスピーカーによるフリーテーマのプレゼンテーションセッションも行われております。今回は、アフリカのベナン共和国にて農業商社を経営し、パイナップルの国際市場の確立に取り組む佐藤正幸さん登壇。「ベナンの市場は未成熟。だからこそ、先進諸国が既に経験済みの市場成熟のプロセスに学んで、市場の成熟をデザインしようとしています」と志が語られました。
第12回の「教育×ブランディング」をテーマとして日本ブランド経営学会サロンも、多くの学びと交流を生みながら、盛況のもとで終会しました。
次回のテーマは、「経営を取り巻く課題」です。急変する外部環境のなかでブランディングでいかに経営課題の突破口を切り開くのか、といったことが実務に携わるスピーカーによって語られます。
明日からも役立てることのできる学びだけでなく、一生もののつながりも育まれている日本ブランド経営学会サロン。参加予約は下記のリンクから行うことができます。
https://jbms20190822.peatix.com/view
ブランディングに答えはありません。あなたのチャレンジが、ブランディングのひとつの答えになるのです。
(文/写真 長尾和也)
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