「日本ブランド経営学会Salon」の第5回目が、10月18日(木)の19時半から21時半に開催されました。
(次回は11月29日です)
日本ブランド経営学会は、ただの学びの場所ではなく、現場でのアクティブなコミュニケーションが生まれるような「動く学会」をキーワードにしている学会です。
松尾「ブランドには世界を変える力がある」
1人目のゲスト講師は、ブランディングコンサルティング会社インターブランドで活躍する松尾任人さん。
▲松尾任人さん
実際に手がけたブランディングの事例を交えて、「ブランディングとは何か?」という大きな問いに応えていく内容でした。
事例①マツモトキヨシ
松尾さんが手がけたのはトイレットペーパーのPBのブランディングです。トイレットペーパーといえば、どこでどのブランドを買っても同じだと考えられがち。むしろ、「買って持っている所を見られたくないから、できるだけ近場で買うもの」ではないでしょうか。
松尾さんは、トイレットペーパーのパッケージをファッションアイテムのように変更することで、「持っている姿を人に見せたいもの」にトイレットペーパーを見事変貌させました。例えば、ヒップホップの人が担いでいるようなラジカセにしたり、フォトジェニックな筋肉美だったり。
ここで、松尾さんが提示した「ブランディングとは何か?」に対する答えが「物事の見方を変える」ということです。
ブランドとは、イメージの塊のようなものですが、これまでブランディングされていなかったものでも、消費者の脳内にブランドをインストールすることに成功すれば、同じものでもこれまでと違ったものに見えるということでしょう。マツモトキヨシのPBを購買した消費者のなかにも、それ以降、ファッション性でトイレットペーパーを選ぶという風に、変わった消費者もいるのではないでしょうか。
事例②龍谷大学
次に紹介されたのは偏差値偏重教育の日本ではブランディングが難しいと言われている私立大学のケースです。クライアントは龍谷大学。
龍谷大学の「教育の新しいカタチを実現する」というコンセプトを表現する方法として、トイレにジェンダーの問題提起をするスマホステッカーを無数に貼りだしました。それらは、自由に持って帰って良いというもので、実際に多くが持ち帰られたようです。
トイレというジェンダーを意識する場所を活用したキャンペーンでしたが、この事例を通じて松尾さんはブランディングには「社会課題を身近にする」という意義があることを提起しました。
今回のクライアントは大学というパブリックな事業者ですので、まさにマッチするブランディングの在り方でしょう。しかし、大学に限らず、世の全ての企業というのは「社会課題を解決するから利益を得られる」という見方もできます。社会課題というと、わかりにくいかもしれませんが、「世の人の困りごと」と言い換えると、わかりやすいかもしれません。
「社会課題を身近にする」とは、「実はあなたの小さな困りごとは、みんなが困っていることですよ」と消費者に気付かせてあげることなのだと思いました。
これら2つの事例のほかにも、羽田国際ターミナルやユベントスの事例も紹介されました。
ブランディングではカタチのないものを変えることができる
松尾さんは「ブランドには世界を変える力がある」と語ります。例えば、スターバックスはブランド力を高めた結果、コーヒーの意味を変えました。スターバックス以前は、コーヒーはセント単位で買われるもの。しかし、スターバックス以降は、数ドル出しても飲まれるものへと変わったのです。
「見え方を変える」「社会課題を身近にする」といったブランディングの要素が今回は提起されました。ブランディングには、人の行動の源となる考え方を変え、それは「世界観」を変えることにつながり、やがて「世界」を変えることになるのでしょう。
ベンチャー証券会社のリブランディングプロセス
2人目のゲスト講師は、ベンチャーの証券会社FolioのCDO広野萌さんとアートディレクター・吉原大道さん。
▲CDOの広野萌さん
▲アートディレクターの吉原大道さん
Folioは、エンターテイメントとして株式を買えるようにするというユニークな証券会社です。今回のプレゼンでは、ロゴの変更プロセスについての話を聞かせてくれました。
事業の売り出し方が、機能訴求から感情訴求へと変わっていくなかで、ロゴがイメージとミスマッチだと感じ始めたことがロゴ変更のきっかけ。プレゼンでは、吉原さんの参加によってデザインワークが大きく変わったことが話されました。「このロゴを仮にパーカーにしたらどんな感じ?」などという発想に、Folioのメンバーはみな驚かされたそうです。
なかでも興味深い話が、「ロゴ変更ではインナーブランディングが大事」という話でした。社員にロゴ変更によるリブランディングの意味を伝えるプロセスには、時間を当てたとのこと。
どのようなブランドであれ、実態をつくるのはなかで働く人です。いくら立派な見映えのよいロゴがあっても、その意味を働く人が理解していなかったり、行動に落とし込まれていなければ、ロゴの活用は進まないといってもいいでしょう。ブランディングでは、対外的なことが注目されがちですが、実はインナーブランディングのプロセスこそが成功の肝なのではないかと考えさせられました。
日本ブランド経営学会salonを通じてコラボの気配が続々と……
今回の日本ブランド経営学会salonは、世界を動かすブランドを手がける松尾さんの話と、証券の概念を変えつつあるFolioの広野さんと吉原さんの話で、参加者のブランドの世界観を塗り替える内容となりました。
日本ブランド経営学会salonでは、恒例として冒頭にてアイスブレークを行い参加者同士の交流を促しています。そのためもあり、プレゼンの後には、参加者同士でも盛り上がりが生まれ、新たなコラボも動き出しそうな気配がありました。
次回の日本ブランド経営学会salonは11月29日(木)の19時半から21時半、渋谷hoops link tokyoにてです。
次回も行動につながる学びをさせてくれるゲストが参加予定。お見逃しなく!
撮影・文:長尾和也
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