注意。そのままマネしても、成功しません。
年末、東洋経済オンラインに、急成長メルカリの記事が掲載されました。題名は「メルカリがマネるGoogle採用の極意とは」。しかし、間違ってはいけないのは、この記事だけ見て、例えば、「ウチでも社員紹介やってみようか」と思ってやってみても、遅かれ早かれ、失敗するということです。手法論だけをいくら試したところで、あまり意味はありません。この手法論だけ試したところであまり意味がないとはどういうことかというと、たいてい「その企業だけが成功する」と「その時期だけたまたまハマった」の2つに大別されるからです。前者はその企業に特有の成功環境があった、ということであり、後者は新しい採用手法がたまたまハマって成功したにすぎないということです。だとすると、どのようにして、取りたい手段の成功確度を上げていくか、ということを考えなければなりません。
メルカリの場合、「メルカリだけに成功する環境要因があった」の方に属するわけですが、では、なぜそのような環境を用意することができたのか、ということを考えることが重要です。東洋経済オンラインの記事で重視すべきは、実はこの回の前の回、「急成長メルカリ、バリューへの異常な執着」をよく読むことで、なぜメルカリの縁故採用が成功しているのか、のヒントがわかるということです。この回は、メルカリの「バリュー」について書かれている回。その浸透にどれだけこだわっているのかを、書いています。ちなみに、メルカリにおいて「バリュー」とされているのは、いわゆるお客様(世の中)に提供する価値のことではなく、文脈や、掲げられている事項から、クレド(=行動指針)に近い印象を受けます。
採用で独自のエコシステムをつくっている。
さて、採用がなぜ成功しているのかに絞って、ブランド論的に解説しますと、大切なのは、まず理念(=バリュー)をベースに採用活動をしているということです。バリューが浸透している、ということがまず、他が真似しにくい部分。言うは易しで、浸透させるには、それこそ経営陣の本気のコミットが求められます。それを土台に、自社媒体を有効に使って、集めた人材の母集団に対して、自らのバリューフィルターにかけて口説いていく、という手法なのです。実は、これは採用ブランディングとほぼ一緒の手法です。人事担当取締役の小泉氏はおそらく自身の経験やGoogleの事例から、これを実践されているのだと思います。
理念を土台にした採用を貫く軸(=コンセプト)があり、そこに基づいて採用活動を行っています。理念共感している人材を、自社の価値観に沿ってフィルターにかけ(=評価し)、動機形成と価値観の浸透を採用活動時から行いないます。採用した時点ではすでに理念は十分理解した上で、今度は教育を行っていける環境を自らつくっているわけです。採用の独自のエコシステムをつくっていると言えるでしょう。
マネしようにも、マネできない採用フローが構築できる。
いわゆる、どんな会社でもやっている通常の採用活動を同じようにやると、メルカリのようなベンチャー企業でも、よく知られた大手企業と競合すれば、内定は辞退されるケースが多いです。それは、理由はいくつかありますが、ブランド論的に言えば、通常の採用フローでは、大手企業を凌駕するほどの差別化された良さが伝わりにくい、ということです。
しかし、メルカリの場合、そもそも母集団集めの時点で、独自のルートで集めているので、考え方なのか、事業なのか、メルカリの何かに共感した人材がそこにいるわけです。それをいろんな社員が口説きに行けるのは、バリューや採用時の評価基準までしっかり浸透しているからにほかなりません。真似しようにも、なかなか真似できない採用戦略ができあがるわけです。
採用ブランディングとは、その会社独自の採用方法ができあがることと、ほぼ同義なのです。
文:BRAND THINKING編集部/むすび株式会社 代表取締役 深澤 了
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深澤 了 ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター BRAND THINKING編集長
2002年早稲田大学商学部卒。山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。グループの広告代理店、アドブレーン社制作局にて、CMプランナー/コピーライター。2006年株式会社パラドックスへ。企業、商品、採用領域におけるブランドの基礎づくりから、CI・VI、ネーミング、スローガン開発、各種ツール、広告制作まで一貫したブランドづくりに携わる。手掛けた企業は採用関連のみで800社以上。2015年早稲田大学ビジネス・スクール修了(MBA)。同年むすび株式会社設立。2016年12月BRAND THINKING立ち上げ。初代編集長となる。
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