【スタートアップのブランド論対談<スペースリー森田博和>第2回】
近年、VR技術の発展が目覚しい。一般消費者にもVRデバイスが販売されたことにより、実際に体験された方も多くいるだろう。しかしまだ一般的にはゲームや動画などの娯楽としての用途が主である。そんな中VRを事業者向けのサービスとして運営している会社がある。それが「株式会社スペースリー」。事業者に向けたVRサービスとはいったいどういうものなのか。創業者である、森田博和氏に、事業内容や起ち上げの経緯などについて、パーソナル・ベンチャー・キャピタル代表で、BRAND THINKINGでも連載を持つチカイケ氏が迫った。
聞き手:チカイケ秀夫/編集:BRAND THINKING編集部/撮影:落合陽城
VRをコンパクトに!
チカイケ:VR化する上で、苦労したところはどういったところですか?
森田:空間のアーカイブをする上で、「どこでも誰でも簡単に」というコンセプトで開発していたので、はじめに苦労したところは、ソフトウェアを誰でも使いやすくどのようなデバイスでも対応できるようにすることと、VRのためのハードをコンパクト化することでした。見るための機器って大きいものしかないんですね。簡単にVRを見られるようにする以上、ハードウェア自体を作る必要がありました。2016年の11月に先にソフトを作ったんですが、ハードは2017年の3月頃から設計を考えはじめ、9月から納品を始めました。
チカイケ:VRを当たり前にする上で、簡易化は欠かせないですね。
森田:やはりあんなに大きなVRヘッドセット、見慣れないものをつけて電車に乗っていたら目立ちますよね。(笑)今までのVRはライフスタイルに馴染むという観点がなかったんです。馴染むようにするために、簡易化、スタイリッシュ化が必要です。そういった観点で「カセット」の開発を進めていきました。
チカイケ:アートのアーカイブ化以外はどのような用途があるのでしょう?
森田:ご利用いただいているところで多いのは不動産業者さんです。もともと不動産業者さんとの繋がりがあったんですが、VRが不動産にも活かせるんじゃないかなと思いました。具体的には、家や事務所などを探すときは、基本的に内見にいきますよね?1番いいのはもちろん直接行くことだと思いますが、写真だけより空間全体を把握できるので、内見しに行く際にもある程度絞れますし、例えば遠方の物件を探していて、すぐには現地に行けない場合もVRで見ることによって、全体の空間は把握できます。アートも含め、空間のアーカイブ化が、いずれ当たり前になるだろうと思っていますし、なったらいいなと思います。
どこでも誰でも簡単に。
チカイケ:ちなみにアートのアーカイブをする際、写真はどの方が撮っているんでしょう?
森田:ギャラリーの人が撮影しています。
チカイケ:へえ、けっこう簡単に撮れるもんなんですね。
森田:先程も話しましたが、「どこでも誰でも簡単に」というところを念頭に置いているので、アーカイブ化も簡単にできるようにしたいと思っていました。
チカイケ:さきほど、アートのアーカイブを行う際に、写真だけだと伝わらないのでVRを活用したと仰っていましが、なぜそれを伝えたいと思ったんですか?
森田:僕は「失われた文脈」と言っていますが、見られなくなった部分を見られるようになれば、世の中が面白くなるのではないかなと思っています。これはアートに限ったわけではなく、建築だって「失われた建築」があります。もうすでになくなっていて、中に入ることができない建造物も、空間のアーカイブをしておけば、その建造物の中に入って疑似体験することができます。知らないことを知ることができるわけです。難しいところは、それを事業化していかないといけない。だからこの事業をきっかけにアーカイブ化のあり方が変われば、面白くなっていくんだろうなと思っています。
すべての点はつながっている。
チカイケ:経歴だけ見ると、アートや宇宙というところからいきなりVR事業を起こしたという、かなり飛躍しているように感じますが、話を聞くとしっかり繋がっているんですね。
森田:キャリアだけ見ると確かによくわからないとなるかもしれませんが、僕の中では意思決定がその都度あって、すべての点は繋がっています。
チカイケ:繋がってないようで、ちゃんと自分の意思と社会が繋がっているんですね。すごく極端に言うと、いつも僕は会社と社会との関係性を考えるんですよ。
森田:自分たちの存在意義は何なのだろうということですよね。僕もそのあたりはいろいろ考えますが、言葉としてわかりやすく言うと、「新しい驚きや発見を多くの人にお届けしたい」ということです。「新しい驚きや発見」は「人類の進歩」に繋がっていくと思います。
チカイケ:「人類の進歩」にフォーカスしているのはなぜですか?
森田:宇宙分野に進んでから、このような考え方をするようになりました。高校のときの物理の授業で、地球と太陽が近づくと地球の生物は死に絶えるという話がすごく印象に残っていて、もし地球で生きていけなくなりそうだったら、自分はどんなことで役に立てるんだろう。僕なら技術をさらに発展させて、人類全員で宇宙に行くだろうなと、そういったことを考えていました。このような事に対してアプローチしていることに、生きている実感や、満足感のような気持ちがあるのだと思います。
第3回へ続く
株式会社スペースリー
代表取締役 森田博和
東京大学大学院で宇宙工学を専攻。経済産業省内閣官房宇宙戦略本部で宇宙開発に従事。国費留学でシカゴ大学ビジネススクールに留学し、MBAを取得するも、卒業と同時にスペースリーを起業する。
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