【勝沼ワイナリーマーケット・新田商店のブランド論】第1回
現在、日本で一番良いワインとされるものは、甲州種ぶどうが原料と言われている。そんな山梨の中でひときわぶどう栽培に適した丘陵地帯「勝沼町」に、創業61年の歴史を持ち、勝沼ワインを通して地元や県外の人たちから圧倒的な人気を受ける店がある。その名は、新田商店(勝沼ワイナリーマーケット)。奥深いストーリーを持ったワインやお酒を扱い、山梨の魅力を発信し続ける同店の代表取締役 新田正明氏に、地元山梨への想い、ワインやお酒に対するこだわりを訊いた。
聴き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:大堀力
世界をまわったからこそ気づけた地元の魅力。
———–家業を継ごうと思われたキッカケは?
学生時代は、マスコミ志望だったんです。映画も好きでしたし、ドキュメンタリー番組を作りたいと思っていました。テレビ局や映画会社などを受けましたが、世界中をまたにかける番組を作りたいという想いから、テレビ番組の制作会社に入社したんです。22歳から29歳までその会社で働いていたのですが、そこで世界中を歩いてまわることできたんです。今思えば、その経験がすごく良かった。あの多感な時期に世界を見えることができたからこそ、逆に日本の地域の良さに気づけたんです。こんなに大きな宝物があるのに、どうして外に向けて発信しないのか。そして、これからは地域の独自性が尊重され、重要になってくる。そんなことを強く思うようになっていました。30歳になる時に一大決心で地元へ帰ってきましたが、山梨に帰ってきてからもそのことはずっと考えていました。勝沼、山梨ならではのものを、このお店から発信していかねばと考えていたんです。
山梨の原料で作ってこそ価値がある。
———–最近では地名や地域名がお酒の名前になるなど、地域性を打ち出すものが多いです。
今でこそ、山梨、勝沼といえばワインですが、当時はワインなんて考えてもいませんでした。「ぶどう酒」がこれほどまでに注目されるようになるとは想像できなかったんです。2000年を過ぎたあたりから、地域を限定し、その地域で作った良いぶどうだけを使ったワインがつくれないか、という取り組みが広がっていきました。その頃から畑名や地域が名前になったワインが登場するようになります。私は、もともと日本酒が大好きだったので、蔵元を訪ねたりもしていました。日本酒は原料米を全国から集めてつくるのが一般的ですが、なぜ山梨の日本酒なのに、山梨の原料米でつくらないのか、いつも不思議に思っていました。「最高の日本酒をつくりたいから兵庫の山田錦を使う」という答えだったのですが、そうだとすれば山梨で日本酒をつくる意味はなんなんだろうと。山梨のお酒は、山梨のものでつくるべきだと思うんです。その意味でも、まちいくふじかわプロジェクトで復活させた日本酒「本菱」は、地元の原料を使っていて良いですよね。同じく七賢さんも地元産の酒米を使用する方向になってきているようですし、地元・地域に目を向ける取り組みが増えることは個人的にも嬉しいですね。
試行錯誤の末にたどり着いた原点。
———–そもそも山梨や勝沼といったエリアにこだわったのはどうしてですか?
新田商店は、私が3代目になります。もともとは15代続いたお寺で、その後農家となり、祖父が商店をはじめました。父の時代は、町のよろずやでした。お米や塩、タバコだけでなく、ほうきやちりとり、子供の赤白帽子、クリスマスケーキまで。今でいうとコンビニのように何でも売っているようなお店だったんです。私は、1995年に帰ってきました。帰ってきて、商売をしていこうと思った矢先に規制緩和。どんどん安売りのスーパーができて、近所にも河内屋(酒類・飲料専門商社)ができました。「安売りの酒屋さんはどこにありますか?」とうちに聞きに来るお客さんもいました。5年くらい、試行錯誤の毎日でした。その間に、蔵元を回ったりしながら、うちから日本のいいものを発信していこうと思うようになりました。今はインターネットもあります。全国のお客様を相手に販売をしていこうと考えたんです。ただ、ネット販売も最初はうまくいきませんでした。有名な酒屋が同じことをはじめていたんです。試行錯誤を繰り返すうちに、うちがわざわざ新潟のお酒を発信しても意味がない。やっぱり地元である山梨のものを発信しないとダメだ、と原点に立ち返れたんです。
新田商店 代表取締役 新田正明
大学を卒業後、映像制作の会社に就職。7年間の勤務を経て、30歳の時に地元勝沼に戻り、3代目社長に就任。先代が築いてきた歴史を受け継ぎなら、勝沼産や山梨産のこだわりのワインやお酒を販売している。現在は、ワインツーリズムや山梨ワインの産地を紹介するコンシェルジュやワインセミナーなどを開催。勝沼や山梨の活性化を目指して様々な活動に積極的に参画している。
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