【吉田パンのブランド論】第2回
「吉田パンを食べて吉がくる・・・そんなコッペパンでありたい。」というコピーを掲げ、朝から行列ができるほどの人気を博すコッペパン専門店が東京・亀有にある。その名も、吉田パン。盛岡では知らない人はいないとまで言われるコッペパンの老舗「福田パン」に師事し、多くのファンから愛されるコッペパンをつくりつづける株式会社吉田屋 代表取締役 吉田知史氏に、パンづくりに対するこだわりや想いを訊いた。
聴き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
私たちのパンは、お客様のパンである。
———–パンづくり、お店づくりで心がけていることはどんなことですか?
私たちの仕事は、当然ですがおいしいパンをつくることです。コッペパンというと、硬いパンをイメージされる方が多いですよね。なので、初めてうちのパンを食べた方は食感に衝撃を受ける方が多いです。もっと硬いと思っていたのに、このしっとり感や柔らかさはなんだ、と。それは、私がはじめて福田パンのコッペパンを食べたときに感じたことと同じです。その食感こそが愛の深さであり、私たちが大切にしていることでもあります。だから、私たちも食感はとても大切にしているんです。またこのコッペパンが食べたい。そう思ってもらえるように、全スタッフが力を合わせてパンづくりに励んでいます。パン屋は、人の日常に寄り添う存在だと思うんです。特別視されるようにデコラティブにやられているところもありますけど、私たちは、お客様においしいと思っていただけるかどうか。感動していただけるような食感になっているかどうか。そこで勝負をしています。シェフが腕組みをして「どうだ!」みたいなことではなく、私たちのつくるパンは、つくっているみんなのパンであり、お客様のパンです。いつもお客様の日常とともにあるパン屋でありたいと思っています。
戦略的でないことが、かえって成果に繋がった。
———–オープン当初、ターゲット設定や宣伝・広報はどうされていたんですか?
最初は何も考えなかったです。プロモーションの事業をやっていたこともあって導線を引いて集客をとるとか、物事をそんな風に考える方ではありました。もちろん、その考え方は今もベースにはあるんですが、ターゲットを明確にするようなことを考える余裕がなかったんです。パンをつくったこともない人間がパンをつくって、販売して、ありがたいことに初日からすごい数のお客様に来ていただいて。何か仕掛けのようなことも特別してきませんでした。その後、様々なところから取材を受け、仕掛けについて聞かれたんですが、宣伝も含めて何も戦略的なことはしていませんでした。逆にそれが良かったのかもしれませんね。唯一、最初に折込チラシをしたくらいです。「吉田パンと申します。よろしくお願いします。」みたいなビジュアルでした。その時だけは、「コッペパン専門店」という書き方をしていました。あとは、師匠が岩手ということもあって、岩手日報という新聞社さんに、オープン前に「東京でも福田の味」と大きく取り上げていただけたんです。そうしたら、意外と関東に盛岡出身の方が多かったようで、大きな反響があったんです。
お客様の声が、私たちを育ててくれた。
———–今のお客様はどんな方が多いですか?
男女比は4:6くらいで、半々くらいになってきていますね。びっくりするくらいに男性のお客様が多いです。土曜日や日曜日は、開店時に25人くらい並んでいただいていることが多いのですが、全員が男性ということもあります。あとは、ファーストブレッドといって、お子様に離乳食としてはじめてパンを食べさせる時に、うちのパンを選んでくださるママも結構います。添加物が入っていないことと、喉越しよくスッと入ることから、初めて食べさせるパンとして良いという声をいただいています。そういった話を耳にすると、やっぱりすごくうれしいですよね。うちは、お客様が営業マンみたいなところがあるんです。目の前のお客様を喜ばせられなければ、そのお客様が誰かに紹介したり、おみやげとして渡したりしてくれませんよね。うちは広告も出さないので、お客様が「吉田パン」や「コッペパン」を広げてくれて、ここまで育ててくださったんです。もちろんテレビや雑誌、新聞を見たよって言われることもありますが、お客様が伝えていってくださること以上に強いものはないですね。
株式会社吉田屋 代表取締役 吉田知史
専門学校を卒業後、アパレル小売店を起業。その後、2009年に株式会社吉田屋を設立し、ファッション事業や広告・プロモーションに関わる事業を展開。ある時、義理の弟にもらって食べた盛岡「福田パン」の「あんバターサンド」に衝撃を受け、福田パンに師事して独自のノウハウを教わる。フランチャイズや暖簾分けではなく、福田パンの精神や心意気を受け継ぐ「同志」として、2013年にコッペパン専門店の「吉田パン」をオープン。以来、朝から行列ができるほどの人気を博している。
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