【デポリーバのブランド論】第1回
日本古来の繊細な裂き織り(駿河裂き織り)と刺子に、国内・海外産の高級レザーを取り入れたデザインで人気を博す「depoliva(デポリーバ)」。日本の優れた伝統文化・素材を選び抜いてつくられる鞄や小物は、味わい深い独特の雰囲気が特徴だ。「低コスト」「大量生産」とは正反対。伝統が織りなす良いものを世界に向けて提案し続ける、株式会社depインダストリーの代表取締役 杉本哲氏にモノづくりに対するこだわりを訊いた。
聴き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
地域の伝統を生かして仕事ができないか。
———–創業の背景を教えてください。
静岡県出身ということもあって、静岡の何かを使って商売をしたいなとずっと考えていました。ある時、偶然「生地」との出会いがあり、こんなに良い織物をみんなが知らないのはもったいないと感じたんです。織物をしている方にお話を聞いたところ、その方ももっと世の中に広めていきたいとおっしゃっていました。地元のものを使って地域に雇用を増やし、地域の活性化に貢献したい。そんな想いで創業したんです。会社を立ち上げたのは2012年になります。学生時代から、社会人経験をある程度積んだら、いつか独立しようと考えていました。もともと幼少期から旅行が好きで、さまざまな地方の特産物などを見るのも好きでした。だから自然と日本の伝統文化や地域の伝統などが目に入っていたのだと思います。また、海外生活の経験もあるので、自分の国を客観的に見る機会にも恵まれましたし、前職で日本全国に出張に出かけていたこともあり、地元静岡の良さに気づくこともできました。静岡は魅力的な物がいっぱいあるのにもったいないなと感じていたんです。
人が持っていない、良いものをつくる。
———–なぜ鞄を中心にしたラインナップにしたのですか?
学生時代から、趣味でバッグのデザインをしていたんです。自分でデザインして、職人の方に作ってもらう。他の人が持っていない良いものを持ちたいという想いが昔から強かったように思います。布製品だと場合によっては安っぽくなってしまいがちですが、革製品は使い込むほど個性や味が出る。だから革製品が昔から好きでしたね。最初の頃は、靴や小物など色々なものを作っていたのですが、日本製にこだわると原価が高くなってしまうこともあり、あえてバックを中心にしてアイテムを絞りました。私たちのブランドは、革と織物のコラボレーションが特長なので、その特長を活かしやすいのが鞄だったというのもあります。デザインは、まずシンプルであることを心がけています。それから、日本っぽくないこと。素材や製法が和のものなので、デザインを和のテイストにしてしまうとコテコテになってしまいます。海外展開も考えていますし、若年層のお客様にもファンになっていただきたいので、洋風のテイストは意識しています。よく見てみたら和を感じる。そんなデザインを心がけています。すべては、他にないものが作りたいという想い。その気持ちが何より強いですね。
古き良き伝統を、新しさに変える。
———–「裂き織り」という製法の魅力はどんなところですか?
裂き織りは、古布を細長く手で裂いて横糸にし、麻や木綿糸を縦糸にして織った厚手の織物で、江戸時代からある製法です。綿や絹などの繊維製品が貴重だった当時、寒冷な気候の東北地方ではじまったのだそうです。裂き織りと出会ったときに、この昔からの伝統を大切にしたいなと思ったんです。ものを大切にする心。古布を使うので、今で言うリサイクルと同じですよね。いらなくなったものを、捨てるのではなく、デザインとして活かす。そこに強く惹かれました。私たちのブランドで使用されている裂き織りは、古布を1本1本丁寧に手で裂いています。そうすることで、繊維を切らずに毛糸が立ち、織った後の裂き織りの柔らかさが生まれるからです。一般的には1本約1cm程度に裂いていくところを、私たちは1本5mmの細さで裂いていますので、この作業だけでも膨大な時間をかけています。その後、染めの工程、織りの工程と続き、裂き織りが誕生するまでに、長い時間をかけて丁寧に作り上げています。良いものを提供し、長く使っていただく。それが私たちのこだわりの原点でもあります。
株式会社depインダストリー 代表取締役 杉本哲
大学院を卒業後、英会話スクールを運営する企業に勤務。出張で全国各地を飛び回る中、裂き織りという伝統的な織物と出会い、地元静岡の魅力を世の中に発信したいという想いから、2012年に株式会社depインダストリーを設立。出身地である静岡で受け継がれる「駿河裂き織り」を活かし、「depoliva(デポリーバ)」ブランドで鞄や小物等の製造・販売を行う。
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