【いにしえ酒店のブランド論】第3回<最終回>
東京・杉並区方南町の路地裏に、日本全国の古酒好きが集まる熟成日本酒を専門にしたお店がある。その名も、「いにしえ酒店」。2016年のオープン依頼、多くの古酒・熟成酒好きに愛されるお店だ。新酒が注目されがちな日本酒の世界で、なぜ古酒・熟成酒の専門店をオープンさせたのか。創業の経緯や今後の展望について、店長の薬師大幸氏に訊いた。
聴き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
ウィスキーにあって日本酒にないもの。
———–海外展開は考えられていますか?
国内の消費量が減っています。よく、普通酒といわれる安いお酒の消費量が減っているだけで吟醸酒などの単価の高いお酒の消費は伸びているから売上は増だという声もあります。つまり顧客単価があがったという事だと思いますが当店としてはあまり実感はありません。古酒・熟成酒だから、というよりも他の熟成系酒類に比べると需給バランスが整っていない事もあり単価がとても安いのです。例えば、15,000円でウィスキーか日本酒のどちらかを購入してください。という質問に対してパッとその金額に見合う価値のお酒を容易に想像できるのはどちらか。という話になると日本酒の場合はなかなかイメージが浮かばない。これは日本人の日本酒に対する古酒・熟成酒の認知度が低く価値を創設できていないからだと感じています。それに比べ海外では熟成ということに非常に理解がある。当店がオープンした時、最初に古酒を購入されたのは近所のスペイン人の方でした。このスモーキーなフレーバーがいいねって。日本人からはなかなかスモーキーというフレーズは出てこないと思います。そういった背景から海外マーケット抜きでは古酒・熟成酒ビジネスは成り立たないと思っています。
古酒の魅力を1人でも多くの人へ。
———–今後の展望を教えてください。
ノンジャンルでいろいろな食と合わせることをしたいと考えています。食を含めてトータルで古酒・熟成集を楽しめるような企画ですね。実際、古酒・熟成酒とスイーツを合わせるイベントを企画しています。ただ、古酒・熟成酒がよく分からないという声もあり苦戦しています。結局、日本酒って放っておくとお酢になるんでしょ?という都市伝説的なことが食のプロの間でも囁かれている状態ですから、もっと根底のところから啓蒙活動をしていかなければいけないと思っています。そういった活動やイベントを通じて一人でも多くの方に知って頂ければと思っています。
若い力で業界全体を盛り上げたい。
———–そのためにはどんなことが必要でしょうか。
「米作りを儲かるカッコイイ仕事にしたい。」農家さんがランボルギーニやフェラーリに乗って農作業に行く。ちょっとシュールかもしれないけど、そういうハッキリした「絵」があれば、若い人が米作りに興味を持ってくれる。若い人が試行錯誤しながら高く買ってもらえる良いコメってなんだ!?と苦心しながらお米を作ってくれれば、業界としても応えらざるを得ないわけですから必然的に活気づいてくると期待しています。良いお米を作ってくれたら、それを使った日本酒は1本千円や二千円では提供できない。大吟醸でも純米大吟醸でもない純米酒が一本5千円。そんなお酒を作って、消費者にも受け入れられるような世の中をつくっていきたいです。そして、そこに付加価値をつけるところで、「熟成」が出てくる。熟成は人の力ではどうにもなりませんから、時を積み重ねていくしかありません。そうすれば、消費者も価値のあるお酒を飲むことになるし、僕ら酒販店も、酒蔵さんも、農家さんも儲かるようになる。それぞれが努力したことによって、しっかりとした利益が出せる。そんな仕組みをつくりたいですね。
(おわり)
いにしえ酒店 店主 薬師大幸
もともとIT企業で業務系システムの仕事をしていたが、日本酒と出会い、2016年11月に「いにしえ酒店」をオープン。東京杉並区方南町の路地裏にある小さなお店には、日本全国の「古酒」好きが多く集まる。
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