経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説|ブランド シンキング

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経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説

【後編】インナーブランディングにより1年で会社が劇的に変化した話。キーワードは「パーセント雇用」。

スペースRデザイン後編01株式会社スペースRデザイン 代表取締役 𠮷原勝己 & 福岡テンジン大学 学長 岩永真一

賃貸リノベーションのパイオニアとして様々なビルの再生を手がける𠮷原さん。だが一時期、社員の退職がきっかけでリノベーションブームの最中に社内不安を抱え悩みの時期に陥った。その活路になればと「パーセント正社員」として専門人材を試しに雇用した結果、一気にインナーブランディングが強化され営業的にも効果を発揮しだした。後編では、𠮷原さんとともに20%正社員の岩永さんを交えてインナーブランディングの経緯を詳しく伺った。(写真左/𠮷原勝己さん、写真右/岩永真一さん)

(聞き手・文・撮影:フルカワ カイ)

 

パーセント雇用(=短時間労働)で、社会と社内の壁を薄くした

ーー「20%正社員」として岩永さんはどのような形で関わっていますか?

岩永)面白いのが、実は明確な役割を持っているわけじゃないんですよね。ヒエラルキー構造だと明確な役割が与えられていますが、僕の場合はうまくプロジェクトの隙間にはいりつつ会社や社員を適切なポジションにしていく、世の中と会社のズレを調整したり、組織の動きがスムーズに行くための空気作りをしています。水のような存在ですね。

𠮷原)いままでは人材開発を一生懸命やろうとしてましたが、組織開発をやれば勝手に人材開発されることに気がついたんです。うちの場合はパーセント社員でクリアできないかなと思い、社内のコミュニティデザインという立場で岩永さんに加わってもらいました。外の空気を常に持ち込んでいただいているので、社内に対するソーシャルな役割と社外のマーケットを動かす2つの役割を担っていただいています。

ーーなるほど。

スペースRデザイン後編02普段は複業フリーランスとして働く岩永さん。まちづくりNPOの福岡テンジン大学で学長を務めるほか、企画・広報・コミュニティ作りのプロとして地元企業を中心にファシリテーターや講師を担当している。

岩永)スペースRデザインが意外と他の組織よりも進んでいるなと思ったのは、大学院型経営をすでにやっていたことです。フルタイム社員9名全員が、プロジェクト単位で柔軟に動けている土壌があり、年齢や肩書きにこだわらないコミュニケーションが基盤にあるのは大きな魅力です。

ただ、誰もがこのプロジェクトの正解は何だろう、というゴールをもっていませんでした。そもそも「築100年」を迎えようというビジョンのもと動いているけれど、どういう落とし込みをして作っていくのがベストなのか、正解がわかっていませんでした。

それならば、まずは互いの個性を知り、仕事の優先順位は何か、自分たち自身がが理解できる様に行動指針をクリアにしようと𠮷原さんと共に動き出しました。

𠮷原)このプロセスを経て、うちではパフォーマンスが圧倒的に上がり、効率良い人材配置とアクションに繋がりました。

ーー次の3つのアクションですね。

 

インナーブランディングの基盤づくり〜設定〜浸透までの具体的プロセス

スペースRデザイン後編03株式会社スペースRデザインが、インナーブランディングとして実行した3つのアクション。ストレングスファインダー®とは、米国ギャラップ社の開発したオンライン「才能診断」ツールで、自分の思考、感情、行動の特徴が可視化される。

岩永)まず「1」のストレングスファインダーは、一人一人の個性を科学的に見える化して「あの人はこれがうまくいくのね」と互いに強みが理解でき、プロジェクトごとに組むチームの座組みが最適かどうか、一瞬で判断できることが出来ます。そのため最初からチーム全員が自信がある状態なので、プロジェクトにアクションすればするほど不安が取り除かれてく状態ができました。

ーー互いの弱み・強みが分かると補いあえるので信頼関係が強化されますね。

岩永)ポジティブな空気が流れることが重要ですよね。

𠮷原)そしてその次の「2」が最も大事な動きとなります。自分たちの理念・行動の明確化ですが、ここにはSDGsも用いながらスペースRデザインならではのビジネスデザインの構図をフレーム化しました。

ーーそれが、こちらの資料ですね。

スペースRデザイン後編04「株式会社スペースRデザインの老朽賃貸の社会的価値創造モデル」(資料提供/株式会社スペースRデザイン)

𠮷原)「企業としての資源(B/S)」と、そのための「コンセプト」、それに基づくキャッシュポイントとなる「インナービジネス(P/L)」、ビンテージビルの持つ「社会的価値(SDGs)」、キャッシュポイントから外れた所の「アウタービジネス」、ビンテージビルを通じてのメッセージが「ソーシャルインパクト」、そしてその受け手が「ソーシャルアウトカム」として一連の流れを可視化し、社員と共有しました。

岩永)これを実際に明確化した時に、会社にとってなんとなく意味があるんだけれど、明確な位置付けができなかったことが価値を持つことだと認識できたんです。特にインタービジネスとアウタービジネスを分けたところがポイントですね。


価値の共有化ができたおかげで、数から質へと社内体制がシフト

ーーアウタービジネスは、広報活動やマーケティング要素が強いですね。

𠮷原)このフレームを皆で共有したとき、私にとっては福岡リノベWEEKのようなソーシャルデザインのイベントも仕事の一環として重要視していたのですが、意外と社員はそう感じてなかったことが判明しました。一緒にイベントを手伝ってきていた社員も「仕事じゃないと思ってました」と言ってたくらい(笑)。

岩永)それを、会社の戦略として必要なことだったんだと皆が腹落ちして、ソーシャルデザインの価値が一気に認知されたんですよね。そこからは今までは社長の趣味的な扱いから会社の重要な戦略として扱われ、企画・運営まで積極的に全社員が携わるようになりました。そのおかげでフォローが充実して、年間のイベントは70件から50件に減少。また管理ユニット数もこの1年で20件増えましたが、人員を増やさずに運営ができるようになったんです。

𠮷原)数ではなく、クオリティで勝負できるようになったんです。

ーーそれが一年でできたのはすごいですね!

岩永)もともと大学院経営ができていたので社員の理解スピードも早かったです。

𠮷原)私は温度差があったことに驚きました(笑)。もう皆、分かっていたと思っていたので。アウトプットすることって大切なんだな、と実感しましたね。このキャッシュポイントと顧客獲得ポイントが違うという所は、社会課題解決会社も割と悩んでいる部分じゃないでしょうか。ソーシャル活動を経営者自体も認識できていないはずなので、いやこの活動はお金になっているんだよとお伝えしたいですね。

岩永)このフレームで大事な視点は、ちゃんと各々の活動に循環が起きているという所ですね。そもそもどの資源に返っていくのか。これが明示されると理念が行動にちゃんと浸透するんです。

𠮷原)それまでは会社の資源を増大する発想がなくて。でも人的資源も含めて「企業としての資源(B/S)」が貯まって行くのがわかると……

岩永)見えないステークホルダーも資産に足り得る。

𠮷原)そう。視野が広がりますよね。

スペースRデザイン後編05手書きで書かれたフレーム。𠮷原さんがあらかじめ項目や内容を策定したのち、社員全員で共有し内容をブラッシュアップした。


SDGsは目標ではなく今の状態を知る指標

ーーSDGsはどのように配置したのでしょうか。

岩永)これは僕が別の活動でSDGsをやっていたのがきっかけですね。ポイントとしては会社の現状がSDGsにどう当てはまるか。会社の理念にどう実装すると、我々の社会におけるポジションが明確にできるかのツールとしても活用できます。自分たちの活動の理解を深めるためだと思ってます。

𠮷原)中小企業経営者にとってSDGsは勉強するだけのものではなく、理念の表層化が目的じゃないですかね。行動させるために発信されたものだと私は捉えています。今の広まり方だけで終わるのは、もったいないなと思います。

スペースRデザイン後編06「SDGsもアウターブランディングのひとつとして会社や組織のことを理解してもらうための指標なんだと思います」と笑顔で語る𠮷原さん。


何もできなかった暗雲時代を抜け、天神中心部のビル再生に着手

𠮷原)現在、鹿児島にもパーセント社員がいるのですが、その方には月に1度来てもらい、社員研修とともにチームビルディングをしています。これが最後の「3」ですね。対話を中心とした研修で、社員同士で本音で語りあいつつ、事業の話、経営の話など毎月テーマ設定して話していきますが、そこで思考がだいぶリフレッシュできているように感じています。社員は社長の話より、岩永さんと月一社員の方の話をよく聞いてますね(笑)。僕にとってそれは、理想の姿です。

岩永)研修で自己開示がおこると普段の何気ない会話が増えるので、その会話の中に仕事のフィードバック的なコミュニケーションを盛り込んでいくと、お互い仕事の改善が進んでいきますね。そこを円滑にするにも僕の役割があるなと感じています。

𠮷原)実は最近、天神中心部でビル再生事業を始めました。目抜き通りのビル再生は今までだったらプレッシャーが大きく二の足を踏んでいたはずです。新しいスタイルのものに自信を見出せないからですね。でもそれを、社員がやりたいと言い始めてやることにしました。これは、短期間で非常に大きな変化です。

経営者の見えない負担がなくなるってすごいことです。今までは解決方法もわからなかったけれど、今は皆がこの構図に向かい合っているという確信があります。それを第三者的であり社員でありサードプレイスじゃなくサードパーソンが横の関係と上下関係を中和してくれます。社員の皆も不安が軽減されたと思います。

ーーなるほど。理念を大切にしている人が関わったのがいい影響となりましたね。

𠮷原)絶大ですね。この職種はまだ認知されてませんが、これが業界となればものすごく進化する。社長は一人なので社長の能力以上に成長が見出せない。それを超えられる存在が見つかったのは大きいと思います。

ーー岩永さんにとっては、パーセント社員はどういう影響がありましたか。

岩永)収入の安定もそうですが専門領域を出せる場が定期的にあるのは精神面も安定しますね。あと、このパーセント社員を取り入れて最近ではフルタイム社員が出産によりパーセント社員に転換しました。この実績によってほかの社員も自分のキャリアが見通せて非常に安定しました。独立や副業の話も出来て風通しの良い会社になりそうです。

𠮷原)パーセント社員の概念がないときは独立=退職だったので、ネガティブな環境となりました。しかし良い独立の道筋ができれば、社内でも良い循環、新陳代謝が生まれる。これを教育制度の一つとして捉えると、まさに大学院経営の構図ですよね。

 

共感の集まりが新たな価値を創造する

ーーインナーブランディングよってここまでパフォーマンスが変化するのがよくわかりました。最後に、スペースRデザインとしてどんな社会があればいいなと思っていますか。

𠮷原)私は、リノベーションが物件を再生させたんじゃない、共感の集まりが再生に繋がっていると思っています。リノベーションは必要だったら行う。実際、久留米の団地はリノベーションではなく花壇を囲むことにより入居率を高めようとしています。こうして製薬会社時代から繰り返し行なっている仮説や検証をこれからも繰り返しながら、そこに住む意味を持つひとたちがそこに住んで働いている、つまり「場所とまちは自分で作る社会」になっていければ理想だなと思っています。会社もDO IT TOGETHER だし、建物もそう。DIYにビジネスの根源があると経験から教わっているので、それを原動力に今後も活動し続けて行きます。

イレギュラーデータが出ているこの業種は、とても面白いんです。そこから社会を変えられるのは、実験者の楽しみでもあります。これを正として、社会が少しでも良くなるのでしたら死ぬまでやりたいと思っています。

リノベーションブームの時に会社組織の不安に陥った𠮷原さん。しかしそこで会社の本質を考え行動したのは𠮷原さん自身が再生の価値を信じて実現してきたからではないだろうか。付加価値をまちや会社や個人に与える。これからもスペースRデザインの挑戦は続いていく。

スペースRデザイン後編07
<プロフィール>
𠮷原 勝己

・株式会社スペースRデザイン 代表取締役 
・𠮷原住宅有限会社 代表取締役
・NPO法人福岡ビルストック研究会 理事長
・福岡県中小企業家同友会ソーシャルビジネス委員会まちづくりビジネス本部長
・これからの大家の新しい仕事 「九州産業大学 建築都市工学部」「不動産学入門(非常勤講師)」

2000年老朽ビルによる経営危機の𠮷原住宅を継いで以来、老朽化するビル事業の再建に向け、2003年博多区「山王マンション」から賃貸リノベーション事業に取り組む。そのビル再生過程で、ひとのつながりが生み出されることに着目し経年優価「ビンテージビル」の概念を確立。

株式会社スペースRデザイン 公式ホームページ:www.space-r.net

 

岩永 真一

・福岡テンジン大学 学長
大学生からグリーンバード、天神のまちづくり団体:We Love 天神協議会へ参画。また独立したのをキッカケに福岡テンジン大学を企画し、2010年9月に開校・学長を務める。現在は、フリーランスでありながら複数の企業やNPOの社外社員、大学の非常勤講師など、複数の職場・仕事・プロジェクトに関わる「複業」を実践。

福岡テンジン大学 公式ホームページ:tenjin-univ.net

フルカワ カイ

SIGN 
フルカワ カイ

SIGN主宰。「お互いを認め合い、彩りのある社会を作る」をビジョンに点と点を混ぜるような活動を行う。地域に根ざした、編集、ライター、ブランディングを通じてペンのチカラで多様な社会を実現していきたい。地域活性にまつわる記事執筆のほか、ブランディングやコピーライティングも担当。noteではビジネス小説も執筆中。

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