【グッドパッチのブランド論対談 後編】
2011年当時、日本にはUIデザインに着目し、Webサービスを制作する企業はほとんどなかった。ほんの数年間で100名以上の社員が在籍するまでに成長し、今では東京の他にベルリン、台北にもオフィスを構える。少人数で活動することの多いクリエイティブの分野で、大きく成長を遂げるグッドパッチ。その秘訣や考え方をパーソナル・ベンチャー・キャピタル代表で、BRAND THINKINGでも連載を持つチカイケ氏(写真右)が迫った。
聴き手:チカイケ秀夫 構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
人は、ハートが揺さぶられたときに決断する。
チカイケ: (前回の続き)オフィスの移転に伴って、ワークショップを行って、ビジョンとミッションを明文化したということですが、少し過程を教えていただいてもいいでしょうか。
土屋:ビジョンやミッションは、企業にとって「なぜやるのか」という目的です。社員が30人いて、共通するものなんだろうと考えると、全員がデザインが好きで、デザインの力を信じているということ。でも世の中ではそれは当たり前のことじゃない。だったらその力を証明しようということですよね。デザインの力が証明されれば、デザインに投資しようという経営者も増える。そうすれば今、比較的給与水準の低いデザイナーの給与も上がっていくでしょうし。
チカイケ:みなさんの根源にあるものを顕在化させていったんですね。
土屋:やっぱり、人間って感情を揺さぶられたときに決断するじゃないですか。ハートを揺さぶられるようなことって、機能やスペックの話は関係ないですよね。
チカイケ:それでビジョン「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」、ミッション「デザインの力を証明する」が出来上がったんですね。
土屋:それから多少文字数の変更はあったにせよ、ほぼ変わっていないです。これを決めたことで、30人の壁を突破できました。明確化したことで、ビジョンとミッションに共感する優秀な人材が集まってくれるようになってきました。
理念体系を少しづつ揃えていった。
チカイケ:社内への理念浸透に関しては、どのように行っていますか。
土屋:これは正直、相当苦労していますよ(笑)。ビジョンやミッションを決めた後に、全社でワークショップを数回行い、行動指針をつくりました。ワークショップの内容から当日のファシリテーションまで全部自分で考えて。これをやったのが社員70人くらいのときでしたね。ビジョン・ミッションと一緒にやればよかったなあ、と思っています。社員100人位までのときは朝礼・終礼を毎日やっていましたが、それが組織のサイズに合わなくなり、文化を再構築していく時期もありました。
チカイケ:クレドだけでなく、ブランド・アイデンティティの整理までやったそうですね。
土屋:はい。デザイナーだけじゃなく、エンジニアとか他のいろんな職種も混ざり合っているので、みんなの「グッドパッチらしさ」を統一しようということで整理したんですね。社員にヒアリングし、いろんなエピソードを出し合い、言葉を洗練させていくと、Passionate/Hands on/Curious/Humanと4つに分類されました。理念の浸透に関しては、ビジョン・ミッションはすでに浸透していると思いますね。共感してくれているメンバーが集まってくれていると思います。
大きな企業が変われば、社会は変わる。
チカイケ:今後の展開についてはどのように考えられていますか。
土屋:いわゆるクライアントワークは、よりデザインパートナーという形を強めていきたいと思っています。デザインの力で企業の課題を解決していくという考え方です。事業の課題をデザインでの力で解決しようというときに、グッドパッチを呼ぼう、となりたいですね。それともう一つはプロダクトを生み出す事業ですね。「Prott」と「Balto」と自社開発のアプリがありますが、まだまだ伸ばしていく必要がありますし、さらに新しいプロダクトも開発していきたいですね。ここは辛抱強くつくり続ける意志が大事だと思っています。
チカイケ:海外にも早くから展開しています。これからも海外拠点は増やしていきますか。
土屋:もちろんそうしていきたいですね。ただそれができる人材をもっと育てていかないと、とも思います。ベルリンにはうちに古くから参加してくれたボリスが強いリーダーシップで引っ張ってくれています。彼のお陰で大きく成長しています。
チカイケ:会社ももっと大きくしていきますか。
土屋:日本のデザイン会社は5名以下の少数精鋭制が一般的です。社長自らハンズオンで自分もデザインしながら経営をするとなると、20名位が限界。僕も自分の好きなデザインをするなら、そのほうがいい。でも僕らは世界を変えるためにグッドパッチを成長させてきましたから、もっと大きくなることで、あらゆる産業を支える企業と対等にパートナーシップを結べるようになりたい。そうすることでデザインの力を証明できる産業や市場が広がっていくと考えています。僕らがチャレンジして実績を出し続ければ、世の中を大きく変えることができると思うんです。
(おわり)
土屋尚史(写真左)
株式会社グッドパッチ 代表取締役/CEO
1983年生まれ。Webディレクターとして働き、サンフランシスコに渡る。btrax Inc.にてスタートアップの海外進出支援などを経験し、2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。UIデザインを強みにしたプロダクト開発でスタートアップから大手企業まで数々の企業を支援。2015年にベルリン、2016年には台北に進出。自社で開発しているプロトタイピングツール「Prott」、フィードバックツール「Balto」はグッドデザイン賞を受賞している。
チカイケ秀夫(写真右)
パーソナル・ベンチャー・キャピタル 代表
デザイナーの経験を経て、GMOインターネットグループで新規事業などさまざまな事業を経験。2015年よりパーソナル・ベンチャー・キャピタルの代表として活動開始。スタートアップ企業にブランディングを広めることを使命に、数多くのサポートを行っている。さまざまな企業のチーフ・ブランディング・オフィサー(CBO)を務める。
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