【コルクのブランド論 第3回<最終回>】
出版という伝統的な業界で、新しい風を吹かせている企業がある。佐渡島氏は、講談社で次々と大ヒット作品を手がけた編集者。その佐渡島氏が、講談社を飛び出して2012年につくった企業がコルク。「編集とは、伝わる順番をしっかり考えること。クリエイターの側からそれを考える集団、大きな軸をつくりたかった」と話す佐度島氏。多くの売れっ子クリエイターを抱え、ヒットを繰り出し続けるコルクの土台となる理念や今後の展望について聴いた。
熱狂すれば、自然と「やりすぎる」。
——–(前回の続き)行動指針のもう2つ、「やりすぎる」、「まきこむ」についてはどんな考えで言語化したのでしょうか。
「俺、やりすぎているな」と思っているうちは、まだまだ全然やりすぎていないと思うんです。例えば子どもの頃。夢中になっていたら、日が暮れていたというのは、気がついたら、やりすぎている状態。だから、そこまで熱狂できるものを探せという意味です。熱狂すれば、自然とやりすぎちゃいますから。そこから人を「まきこむ」ことで、少人数で熱狂が起きて、それが会社全体に伝播して、世の中に伝播していきます。編集という仕事で言えば、僕らはストーリーをつくる職業。それが「世の中のストーリー」になるまで延々とやり続けていく必要があります。そのために、まずは個人で「やりすぎる」こと。そして人を「まきこむ」。世の中の大きなうねりを起こしたものって、ストーリーが美しいんです。数学の証明のように流れていく。それを引き起こすシンプルな法則を見つけたい、というのは常にあります。人間のやることなので、必ず法則があると思うんですね。その一番最初がコルクで言えば、「さらけだす」から始まるのかなと思います。
もたらす価値が大きい企業を目指したい。
——–クリエイターの立場で、クリエイターの人生や作品をプロデュースしていく「大きな軸」になるということは、コルクという企業を成長させていくということと、ほぼ同義ですか。
売上は、世間にどれだけ信頼されたのか、という指標。そういう意味ではコルクはまだまだ小さな影響力しか与えられていないと思います。ただ、コルクという企業を大きくしたいか、というと少しニュアンスが違います。あくまで世の中にもたらす価値を大きくしていきたい。僕らの仕事は、作家のクリエイティビティもさることながら、編集者としてのクリエイティビティも問われます。クオリティが絶対的に重要です。それを上げていく、保っていくことを重視すると、やみくもに規模感を追いかければ、質の低下を招いてしまうことは目に見えています。例えば、ピクサーはとても大きな会社ですが、物語の心臓部をつくっているのはその中の一部です。つまり、小さな単位を複雑化させずに増やしていけば、価値は大きく、企業はなるべく小さく、を実践できるのではないかと考えています。
今はエネルギーを溜めている状態。
——–「大きな軸をつくる」という佐渡島さんのビジョンは、例えばベンチャーキャピタル(VC)も理解しやすいかと思います。外からの資本を入れることで、そのビジョン達成に向けて加速する、という考えはありますか。
VCは入れません、と明言しているのでそれほど声はかかりません。正直、それでも話は来ます。今、クラウド・ファンディングを利用する人も増えていますが、僕はもっとこのマイクロ・ファイナンスの流れは加速すると思っています。そのときに、直接世の中に問いかけた方が、より大きなインパクトを与えられると考えています。マイクロ・ファイナンスの流れが進んで、本当に世の中を変えるようなコンテンツをやるときに、ぜひ社会に一度問いかけてみたいですね。そこまではエネルギーを溜めている状態です。今は社員も増えたので、教育がとても重要だと考えています。僕らは新しい軸をつくりたいので、積極的に異業種経験者を採用しています。編集者として最も重要なのはクリエイター側の視点に立てること。これは簡単なようでとても難しい。「自分だったらどうして欲しいか、どうしたら一流のものをつくれるのか」。それを考えると、一流の作品をしっかり読み込んで、深く理解することに行き着きます。そこには作家の考えが「さらけだされて」いるわけですからね。クリエイターという人生そのものをプロデュースしていくには、クリエイター自身も気づいていない原石を発見し、それを世の中に正しい順番で伝えていくことが大切。コルクの価値を大きくする土台は、そういうことができる編集者を増やしていくことなのだと思います。
(おわり)
聴き手・構成: BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
佐渡島庸平
株式会社コルク 代表取締役社長
twitter:@sadycork
2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを設立。現在、漫画作品では『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『テンプリズム』(曽田正人)、『インベスターZ』(三田紀房)、『昼間のパパは光ってる』(羽賀翔一)、小説作品では『マチネの終わりに』(平野啓一郎)の編集に携わっている。
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