【Skyland Venturesのブランド論対談 第1回】
25歳以下の若手スタートアップに積極的に投資をする企業がいる。10年続く企業が1%とも3%とも言われる熾烈な世界。Skyland Venturesはなぜ不確実な生まれたばかりの企業に向けて投資を行うのか。それを明確に打ち出したスローガンが「The Seed Maker.」。このほど自分たちが世の中へもたらす価値(=バリュー)も言語化した。その背景や今後の行き先について、代表パートナーの木下氏(写真左)と、ブランディング・プロジェクトを主導したPARK代表取締役でBRAND THINKINGで連載も持つ、コピーライターの田村氏(写真右)が語り尽くした。
聴き手・構成:田村大輔・BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
「絶望」が出発点。
——–ベンチャーキャピタルで、ブランディング(=理念の言語化)はあまり聴いたことがありません。このあたりの背景からお聴かせ頂けますでしょうか。
田村:最初、弊社のアートディレクター佐々木のもとへTwitterのメッセージで問い合わせがあったんですよ。Twitterから仕事の相談が来ることなんて今までなく、最初は冷やかしじゃないかと思ったんです(笑)。
木下:いえいえ、決して冷やかしなんかじゃなかったんですよ(笑)。もともと今の状況に絶望を感じていたというのが出発点でした。2012年の8月に会社を設立して、5年弱で40社、14億円の運用をしてきました。上場した投資先はまだありませんが、月商で数千万円~億円単位で稼ぐような会社も出てきたんです。そうなると、「うまくいくな」と感じつつ、大した実績では無い現実にも関わらず、少しスタートした頃と比べると狂気性が足りなくなってしまったような感覚がありました。世の中を変えるには僕ら自身もっともっと成長していかないといけないと。それがブランディングをお願いする出発点でした。
田村:先輩経営者からのアドバイスもあったと聴いていますが。
木下:上場企業並の事業規模になっている「Sansan」という名刺管理サービスの会社の代表・寺田さんに、この自身の停滞感について悩みを聴いてもらっていました。その中で、コピーライターに頼んでみるのはありかもしれないな、自分たちの軸足がはっきりして周りに伝わりやすくなるかもね、というアドバイスをもらったんです。
田村:それをすぐに実践するのが木下さんらしいですね。
木下:尊敬する先輩経営者・若手経営者のアドバイスはできるだけすぐに実行しようと心がけています。寺田さんのアドバイスでは、エース級のコピーライターの方にお願いした時の値段感も聞いて、このくらいの金額でいい人にお願いできるならプロの力を借りるべきだと感じられたことも大きいです。
「フライングで、投資する。」がスカイランドの最上位概念。
——-理念を言語化していくまでのプロセスはどんなふうに進めていったんでしょうか。
田村:スカイランドの投資先企業や、出資者など、いろんな方にヒアリングし、それからワークショップもしていったんですが、最初に木下さんにお会いした時に、「絶望」を感じていると。そこから紐解いていって、というのが始まりでした。
木下:最初ブランディングは3〜6ヶ月かけるものだと聞いて驚いたのですが、こちらはスタートアップ的な形でやっているので1ヶ月でやってほしい、とお願いしたのですが、さすがに難しいと。ただ最終的には1ヶ月半くらいでミッション・バリューを言語化してもらいました。その後、お願いしたいことが増えて、今でもスカイランドのクリエイティブパートナーとして継続的にサポートしてもらっています。
田村:他社と比べるとかなりハイペース。このあたりはスタートアップならではのスピード感ですね。スカイランドもまだ組織もコンパクト。木下さんの属人的なスタイルに依存する形が、ヒアリングやワークショップで見えてきました。スタイルが1本化されていない、と。
木下:だからこのあたりで言語化をしっかりやって、新しいスカイランドを発信して、リニューアルしたいという意図があったんです。
田村:25歳以下の起業家を増やしたいという想いがとても明確でしたので、言語化していく上でも、とてもつくりやすかったですね。
木下:「フライングで、投資する。」が出てきた時は、これぞ「プロの言葉」だと思った。あれは普通では出てこないです。僕らのすべての行動の中で最上位概念にすべきだと思いました。その言葉をプリントしたTシャツを着て、イベントに行くと、絶対に「これなに?」となります。説明して「スカイランドらしいよね」と言われるととてもうれしいですね。体現できているのかな、と。
言語化して、腹をくくれた。
——-「The Seed Maker.」という言葉は、Skyland Venturesのこれからの未来をはっきりと明示しています。
田村:いい仕事って、クライアントと「共犯関係」 になれるか、っていうのがあると思うんです。そういう意味で、今回僕らとスカイランドさんの間にはそれができていた、つまり、双方で腹をくくって仕事ができていたと思うんですね。それと同じことがスカイランドの投資先企業との関係性でも起こっているんです。そのくらい投資先企業に入り込んで成長にコミットしている。
木下:自分が起業する前にいたベンチャーキャピタルで、シード期のスタートアップに投資して成長シナリオをつくるイメージができた、それがSkyland Venturesの原点となっています。結局、成長しきったところで投資するより、一緒になって苦楽を共にする方が面白い。そして創業初期からやった方が投資的観点でのリターンのポテンシャルはとても大きい。だったら、一緒に会社をつくるところから、起業家に関わっていくほうが絶対的に面白いし、社会的にも意義があると思うんです。
田村:以前はシード期以外を扱うかどうか迷っている、という感じでしたもんね。
木下:はい。「The Seed Maker.」と言語化したことで、自分たちの行動が強化されましたよね。これはどんな企業も同じだと思いますが、単に瞬間的な儲けを最大化するだけなら、ミッションやバリューなんか言語化しなくてもいいんです。それがなくても、うまくいく会社はあります。ただ僕らは、世の中に事業の種をどんどんつくっていくという使命感を持って長期間やる必要があると思っているんです。
田村:Twitterで若く有能なエンジニアにメッセージして、口説き落として起業させたりしてますもんね。
木下:それこそまさに「The Seed Maker.」だし、「フライングで、投資する。」なんだと思います。毎週水曜日には「SEEDS」という名のもと、スタートアップとの15分のスピードミーティングを開催し、毎回10人くらいと面談しています。その場で起業が決まったり、投資を決めることもあります。とにかくガンガン投資していく必要があります。
※Skyland Venturesのバリュー
第2回 「『絶望』が、スタートアップのエネルギーになる。」は7/31(月)に公開します。
木下慶彦(写真左)
Skyland Ventures 代表パートナー
1985年生まれ。ベンチャーキャピタリスト。インターネットサービスをつくる25歳以下のスタートアップへの投資をメインに行うシードファンドを運営するSkyland Venturesの代表パートナー。 「The Seed Maker.」というミッションを掲げ、日本国内を中心に40社以上へ投資。総額14億円を運用する。早稲田大学理工学部卒業。
田村大輔(写真右)
1982年生まれ。2004年よりコピーライター廣澤康正氏に師事。ユニクロ、ロッテリア、ミズノなどのブランディング/プロモーションに携わる。2012年、面白法人カヤック入社。コピーライター専属部署「コピー部」の立ち上げに参画。サービス立案・運営からキャンペーンまでを担当。2013年、オレンジ・アンド・パートナーズ入社。プランナー/プロデューサーとして、企業ブランディングや地域活性プロジェクトを担当。2015年、クリエイティブエージェンシー株式会社パーク設立。「愛はあるか?」を理念に、最近ではスタートアップ系のブランディングに力を注いでいる。
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