山梨学院大学現代ビジネス学部教授 今井久
【地域活性化の課題と実践 第1回】(全3回)
経済学と医科学の博士号に、MBA。地域経済を対象に研究を行い、地域活性化への取り組みや提言など、ユニークな活動を行う今井氏。山梨県には、県庁所在地である甲府のドーナツ化現象、近隣市町村の過疎化、人口減など、全国の多くの市町村が抱えている問題が潜んでいる。現場での徹底したリサーチや地域活性化の取り組みで培った経験をもとに、今井氏に地域活性化の課題や解決策などを聴いた。
人が幸せに暮らすための地域の在り方。
——–社会疫学と地域の在り方はどのようにつながっているのでしょうか。
社会疫学は学問的には医学のひとつです。社会疫学の研究は、個を見るのではなく集団や地域全体を見ていきます。そして、どうしたら健康で長生きできるのか、ということを考えていきます。ある地域に住んでいる人の経済性や社会性、いわゆる社会経済的地位が健康にどのように影響するのかを研究するのが社会疫学です。例えば、ある地域を観察し、個人の経済力、地域性、さらには人間関係が、そこに住む人々の健康にどのように影響を与えているかを考えます。要するに、その地域の人々がどのようにしたら健康で幸せに暮らせるか、というところに研究目的が収れんされます。健康や幸せには、ソーシャル・キャピタル、例えば絆、信頼、人とのつながりが影響を及ぼすことがわかってきています。もちろん経済性も人の幸せに影響しますが…。私は、ソーシャル・キャピタルなどの地域性が、そこに住んでいる人の幸せに及ぼす影響に興味を持っています。社会疫学の研究において、地域の在り方はとても重要になってきます。
人々の心が外に向いていた。
——–甲府市の活性化の取り組みに当初関わった頃、何が課題だったのでしょうか。
甲府市や山梨県の活性化に関してはもう5年以上も関わってきています。ゼミの学生がレポーターとなって甲府市内のイベントなどをレポートするなど、さまざまな取り組みをしてきました。以前から感じていたのは、地理的な要因もあると思いますが、地元のみなさんの気持ちが東京に向いていたということです。今でも、そのような人は少なくないのかもしれません。高校を卒業すれば多くの若者は東京へ出ていきますし、そのまま東京で就職してしまいます。山梨へ帰ってくるということはあまりありませんでした。結果、山梨県の人口はどんどん減少しています。何十年以上も前から社会問題として取り上げられていますが、かつての繁華街などがシャッター街になってしまっています。それをどう復活させるか、という取り組みは少しずつではありますが継続して行われています。一方、最近では、山梨で楽しみながら暮らす、という生き方が若者の間で徐々に増えてきた印象はあります。
若者の活躍事例とエシカル消費。
——–その変化は何が要因になっているのでしょうか。
地域貢献への意識、興味の高まりは元気な若者が地元で活躍している、という事例で示せると思います。例えば廃れた飲み屋街を「甲府ぐるめ横丁」として復活させた青木はるひ氏。企画デザイン会社である「DEPOT」を経営する宮川史織氏。芦川町で古民家を再生させた宿「LOOF」を経営する、芦川ぷらす代表の保要佳江氏。彼女らのように、20〜30代の若者が、山梨県内で活躍し、イキイキと暮らすという例が出てきています。また、様々なイベントも開催されています。例えば、甲府ん!横丁はしご酒ウィーク。NPO法人こうふ元気エージェンシーの一部である「甲府ん!路地横丁楽会」が主催していますが、チケットを買えば、甲府中心街の路地横丁にある参加飲食店を文字通り「はしご酒」できます。まだまだ地域経済を押し上げるまでにはなっていませんが、甲府市を例に取ってみても、以前はなかった取り組みが増えていることは事実です。全国展開しているチェーン系のお店ではなく、地元に根づいたお店に行こう、といういわゆる「エシカル消費」の波が少しずつ来ているのではないかと考えています。単なる価格で選ぶのではなく、地元に貢献しよう意識が出てきているのかな、と思いますし、もっと出てきてほしいと思っています。
(第2回へつづく)
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:大堀力
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して弊社は一切の責任を負いません。