【無名の酒がなぜ売れたのか 第6回】
ビジョン、ミッションの議論の時のホワイトボード
ブランド・ビジョンは、一貫性を出すための起点。
本菱のビジョンは、「人と地元の未来を紡ぐ」です。本菱を飲むことで、「富士川町を感じられるだけでなく、それを通して自分の地元や縁を大切にする人を増やす」。というビジョンを定めました。そのために達成すべきこと(=ミッション)として、「目指せ、日本の田舎代表の酒」としました。
今日はなぜこのビジョン、ミッションにしたのか。そもそもなぜブランドにビジョンやミッションを定めたのか。それらのプロセスをなるべく細かく書いていこうと思います。
ブランド・ビジョンとは、よく言われるブランド・アイデンティティと同じです。ブランド論をまとめたアーカーが、近著で「ブランド・アイデンティティだと、デザインのロゴと間違える場合が多いのと、ブランドの理想を描くという意味にも合致している」という意味で言い換えています。ではブランド・ビジョンとは何なのでしょうか。それをアーカーは「こう見られたいと定めたブランドの姿」としていて、今そう見られていなくても、「理想の姿を規定してもいい」と書いています。
ブランド構築の重要な点は、ビジョンを定めて、それをあらゆるタッチポイントで一貫させていく、ということです。つまり一貫性を出していくには、ビジョンを定めることが起点になると言い換えることも出来ます。
こうしたブランド論の基本的な考え方に沿って、ビジョンをつくっていったわけですが、起点になるとは言え、いきなり「本菱のビジョンってなんにしましょう」と言っても、決まりません。そんな重たい議論は、イチニノサンという感じできないのが人間です。ビジョンを決定するまでに、何ヶ月もの工程を踏みました。強みを整理し、一番愛されたいペルソナ像を決め、競合を設定し、価値の整理をして、「これから先、この価値が世の中に広がっていくと、どう変わるか、あるいは広げていくことで、どう変えたいか?」と問いかけます。ここから先述のビジョンの原型が生まれ、ライティングを施していきました。
昨年の稲刈り。今年も10/7(土)予定で行われる。参加無料です。ぜひお越しください。
一見何もない町。でも必ずいいところがある。
実はビジョンよりも、ミッションのほうが少しだけ難航しました。このビジョンを達成するために、本菱に関わる人たちがすべきこと。「人と地元の未来を紡ぐ本菱」とは、つまり本菱を手にとることで、ご縁を思い出し、感謝し、実際に縁がつながるということが広がってほしいわけです。その「代表的な聖地」として富士川町が知られるようになって欲しいと思いました。
一見、山と川しかない。典型的な過疎の町。しかし、私たちはこのプロジェクトを通して、徹底的に強みを洗い出し、「元日にダイヤモンド富士が見られる場所」、「山梨県唯一の桜の名所百選」という2つに絞り込みました。これはもちろん少し調べればわかったことですが、無数にある強みの羅列の中から、やっぱりこの2つ、となったのです。それだけでプロジェクトメンバー全員の納得感も違うし、私たちにとってその強みの重さも違ってきます。
典型的な日本の原風景のあるこの富士川町が、本菱を通して「田舎の日本代表」になればいい。どんなに小さな町、なにもなさそうに見える町でも、必ず強みはあるし、地域資産もある。それを示すべきだ、と議論がまとまり、このミッションになっています。
ブランド・ビジョンは、「今はない理想の形を示しても良い」とアーカーは書いています。もちろん今回の場合、商品がありませんから、なんにしても理想の形を描かなければなりません。そういう意味で、やりやすかったかもしれません。考える最中は、商品のあったほうがなにかと参考にはなりますが、今回のようにない場合は、ブランドの理論の本質的な部分を信じてやっていくしかなくなります。
このようなプロセスをメンバーで共有できたからこそ、ほとんど浸透がいらずに行動に移れたのだと思います。
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