早稲田大学ビジネススクール教授
【永井 猛のブランドづくりの近道 第4回】
ブランド戦略に関する注目の高まりや競争が激化するにつれ、ブランド戦略はどの企業にとっても無視できず、例えばCMOと同位置でCBOを置くなど、ブランドをマーケティングと並ぶ経営の上位概念として捉える動きも増えている。一部の大手企業だけでなく、ブランド戦略をあらゆる企業が導入していくために留意すべき点は何か。学術的なアプローチだけでなく、あらゆる企業のコンサルティングなども手がけてきた永井猛教授に聴いた。
ターゲットを絞れないのは、こだわりがないから。
——企業はなぜターゲットを絞ることを恐れるのでしょうか。曖昧にしたまま売りたがります。
結局、以前の議論になるけど、これも自分たちなりの「こだわり」がどこにもないからだよね。「こだわり」があれば自然と「こういう人たちに使って欲しい」となるはず。特に創業経営者の場合は、自分の価値観=企業の価値観。価値観は一番大事にしなければならないものなので、こだわりと価値観は、本来リンクしているはずなのです。だから整理できていない企業は、すぐに整理して経営者自らが語り続けないと、組織全体には広がっていきません。もし、ラッキーなことに、ターゲットを絞らずに売れてしまったりすると、もっと資金力のある大きな企業が参入してきます。それは参入しやすいことの裏返しでもあるからです。ターゲットを絞った商品は、熱狂的なファンが生まれやすく、そこに大きな参入障壁が築かれているかのように映ります。でも、ラッキーパンチで当たってしまった商品には、そこまで熱狂的なファンができないので、大手企業が入りやすいと思ってしまいます。そうすると、資金力のパワーゲームになるので、結局、小さな企業は負けてしまいます。
グローバルで見たら大企業もどこかに絞っている。
——例えば、グローバルで見ると、あのトヨタもエコカー市場に力を注いでいます。
あらゆる年代、さまざなまカテゴリーを自社商品で網羅していることを「フルライン」と呼ぶとすれば、グローバルで見ればそんな企業は皆無なんです。ラインナップを絞ったり、国を絞ったりして、ターゲットを極力狭めて勝負しています。トヨタも、日本ではいろんな車種、年代にフィットしたフルラインナップの車を販売する企業に見えますが、グローバルで見れば、自分たちがつくったエコカー市場に特化して、そこでナンバーワンになろうとしています。ただトヨタの場合、今が正念場。フォルクスワーゲンも、メルセデスも、BMWもエコカーといえば電気自動車と位置づけた。ハイブリットは省燃費車だ、と。そこでトヨタは「ミライ」を投入した。これから先、エコカーの市場のナンバーワンであり続けるためには、まだまだ越えなければならない課題がたくさんあるでしょう。トヨタでさえ、グローバルでは必死になって、他社が追随しても、自分たちがナンバーワンであり続けようとしている。これがまさに「こだわり」なのです。
日本の製造業はまだデザインの力を信じていない。
——デザインが差別化要因になりえることは、盛んに言われていますが、日本の製造業のデザインは欧米のそれに比べてなぜ画一的なのでしょうか。
日本企業、とくに製造業系は、当初はインダストリアルデザインを欧米企業に委託していました。しかしあまりに値段が高すぎて内製化したという歴史があります。一般的に言えば、デザイン分野の旬の時期は短い。しかし、内製化すれば、彼らを活かすしかなくなります。ただ、あまり大胆なデザインだと、今度は社内でクレームがつきやすくなります。そうすると、彼らはサラリーマンなので、修正せざるを得なくなる。デザインで差別化していく、つまり顧客にワクワクやドキドキを与えることが本当は先決なのに、社内事情がどうしても優先してしまうのです。それが長い間、日本のインダストリアルデザインの画一性につながってきたと思います。一方、これを企業成長の初期に気づいたのが韓国企業のヒュンダイです。海外デザイナーを積極的に活用しました。また例えば、広告業界では、電通や博報堂を中心にクリエイティブの部署から、多くの人たちが独立しました。内部の人たちを活性化するために、OB・OGである彼らの力を借りる。そして競争関係を促しています。日本の多数を占める製造業は、まだこういう構造を築けていません。
聴き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
第3回「日本企業のマーケティングが近視眼ではいられなくなる日がやってくる。」
第1回「風を見極めろ。やらなければ一生、ブランドはできない。」
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