早稲田大学ビジネススクール教授
【永井 猛のブランドづくりの近道 第2回】
ブランド戦略に関する注目の高まりや競争が激化するにつれ、ブランド戦略はどの企業にとっても無視できず、例えばCMOと同位置でCBOを置くなど、ブランドをマーケティングと並ぶ経営の上位概念として捉える動きも増えている。一部の大手企業だけでなく、ブランド戦略をあらゆる企業が導入していくために留意すべき点は何か。学術的なアプローチだけでなく、あらゆる企業のコンサルティングなども手がけてきた永井猛教授に聴いた。
ブランドは思考の節約。
——ブランド構築でまず企業が手を付けるべきことはなんなのでしょうか。
そのブランドのイメージが出来上がり、認知度が上がると、消費者にとっては、「思考の節約」になるということをまず認識すべきです。例えば、シャンプーを買う時に花王の「メリット」をいつも買っている人は、メリットを買うし、資生堂の「TSUBAKI」を買う人は同じものを買うと思います。そのブランドが所属するカテゴリーで「何を選ぶか」という思考を経ず、ショートカットすることができるんです。このメカニズムがいわゆる「指名買い」につながります。これを前提として、ブランド構築に取り掛かるべきでしょう。ブランドとは?との問いかけによく言われることは「顧客との約束」という答えがありますが、これは言い換えると、「ブランド固有のストーリー」ということです。では、このストーリーは、どこからできてくるのか、と考えれば、それはそのブランドに対する「強いこだわり」は何か。ということです。どんなブランドもこだわりがあるはず。それは、まず何かを整理し、社内で共有すること。こだわりから始まったストーリーを実現していくことで、顧客との信頼が生まれていくのです。
どこまでこだわりを貫けるか。
—— 裏を返せば、「こだわり」のないブランドは出すな、ということでもありますね。
だから、どこまでもこだわりを押し通し続けないといけない。自分たちがこだわった商品やサービスが市場に浸透してシェアが上がることで、何ができるのかを経営者は描かないといけません。ブランド構築を行い、自社から生み出したトップブランドができることで、近い将来だけでなく、数年後のストーリーまで描きやすくなるはずです。しかし一方で、このストーリーを描く気のない経営者もいる。数ヶ月先の小さな野望と、数年先、数十年先の大きな野望。この企てが「ブランド戦略」なのです。中小企業にとって、ブランド構築を難しくしている要因はここにあります。つくるだけなら、どの規模の企業でもわりとできるのです。例えば能率協会の手帳づくりのOEMで大きくなってきた会社があります。だから技術やノウハウはあるわけです。ここは実はほぼ日手帳もつくっています。ほぼ日手帳はターゲットや機能を限定したところに、糸井さんのこだわりがある。特に日本の製造業は、モノづくりの力は強いのに、そのこだわりを伝えようとしない。そこがもったいないのです。
理念にはライフサイクルがない。
—— 商品やサービスだけでなく、企業ブランドでは何か違いがありますでしょうか。
商品やサービスには必ずライフサイクルがあります。しかし理念にはライフサイクルがありません。理念があるがゆえに、そこに商品への「こだわり」を生むことができます。理念に「自社らしさ」が出せているか。ここが大切です。理念は会社が存在する目的です。ここが明確になると、理念を実現するには何をしなくてはいけないか。何をやってはいけないのか。それが見えてくるはずです。これは経営戦略で言うところの「選択と集中」にもつながっていきます。しかし、重要なのは、理念だけを決めてブランドができるわけではなく、あくまで始まりというだけです。ブランドは「現場」でできていきます。それは企業と顧客の接点でできていくものです。だから理念を目標にブレイクダウンしていくことがとても重要なのです。また、理念や理念に基づいて開発されたこだわりの「ブランド」に対して、トップが積極的に関わって、ブランドを育てていくことも、こだわりを貫き、大手のブランドと差別化していくために留意してほしいことです。
聴き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
第4回「グローバルで見れば、ターゲットを絞っていない企業なんてない。」
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