SECIモデル、ブランド論、経営における本質は同じ。
ブランド構築は、プロモーションではなく、まず組織に着目せよ。
SECIモデルは1990年代、一橋大学名誉教授である野中郁次郎が考案した、組織における知の創出を表した理論です。「世界標準の経営理論」(入山章栄,ダイヤモンド社,2019)で紹介され、同書のベストセラーもあり、今再び、脚光を浴びている経営理論です。
引用:ハーバード・ビジネス・レビュー(ダイヤモンド社)2001.8月号「ブランド知識構造のケイパビリティ〜ソニーのブランド戦略に見る」より
簡単におさらいしておくと、SECIモデルとは、下記の図の通り、組織が知を蓄え、発展させる「知識創造」を行っていくためには、形式知→暗黙知(内面化・実践)、暗黙知→暗黙知(共同化・共感)、暗黙知→形式知(表出化・分節)、形式知→形式知(連結化・分析)というプロセスを経ており、これをひたすらに回転させていくことで、企業成長にとって必要な知が組織に創造されていく、という理論だ。SECIモデルはあらゆる研究者たちに刺激を与え、さまざまな理論が生まれていくベースにもなっています。
野中は、同じ一橋大学の教授で、日本におけるブランド論の第一人者である阿久津聡と共同で、2001年に論文を書いている。「ブランド知識構造のケイパビリティ」だ。このことから示唆されるのは、SECIモデルとブランド構築には密接な関係があるということ。とかく「プロモーションの統一」をブランド構築とする誤った見方が多い中で、組織に着目することで、組織の大小にかかわらず、ブランド構築が可能になること言うことを物語っているのです。
実際、ブランド構築を行っていくときに、実務レベルで考えると、まさにそれはSECIモデルで言われていることがそのまま組織で行われることとなります。まず、ブランド構築をする上で行うのは、企業内にある価値観を洗いざらしにすること。これはチームによるワークショップで行うことが多いのですが、これはSECIモデルで言えば、まさに「暗黙知→形式知(共同化・共感)」そのものの作業であると言えます。実際にワークショップをしていく中で、「ああ、うちの会社ってこんな強みがあったんだ!」というような感想が漏れることもしばしばあるからです。次に、出てきた要素を整理して、メンバー間で「形式知→形式知(連結化・分析)」という俯瞰した作業を行います。例えばメンバーで議論したことをまとめ、全社員にそのプロセスや結論を発表し、ブランドの理念を宣言する、というのはまさにここに当たります。次の「形式知→暗黙知(内面化・実践)」は、まさに決めた戦術をブランド理念に基づいて実行するフェーズ。ここで新たな暗黙知を得るわけです。そして最後の「暗黙知→暗黙知(共同化・共感)」はその実践をメンバーと共有することで、体で覚え、それがまた形式知となることで、新たな知=ブランドをパワーアップさせるための新たな知が表出化されていくのです。
ちなみに、アーカーがつくりだした今のブランド論(ブランド・エクイティ論)も1980年代後半〜1990年代前半に出てきたものですから、SECIモデルに影響を受けたものとは考えにくいでしょう。しかし、時を同じくして、このような本質的な理論が出てきたことは、とても興味深いことです。
ブランド構築というと、とかく外向きのプロモーションのことばかりが議論されがちですが、実はブランド理念を表出化させ、組織内の意志や行動の統一的なベースをつくり、そこで得られた新たな知をふまえ、さらに新たな打ち手を繰り出していく。そういう組織的な営みがあるのです。プロモーションを生み出すのも結局は、この組織のダイナミズムに組み込まれた人によるものなのですから、「企業として、プロモーションを行うほど成長していない」や「BtoBビジネスなのでブランディングは必要ない」という見方は企業にとって非常にもったいない考え方です。どんな組織でもブランド構築は始められるのですから、それは早い段階から行っていたほうが、組織の成長をより促せるのだと指摘することができます。
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