【大工の会、伝統を明日へ 前編】
大工は一匹狼もしくは、自分のグループをつくり、群れない。なんとなくそんなイメージを抱きがちだが、大工を始め建築に関わる人間が集い、「若手大工の会」として活動をしているユニークなグループが山梨県にある。南アルプス市を中心に活動する彼らは、昔からある大工の技術を未来に伝え、大工や建築に携わる人たちを増やしたいという大きな志を胸に立ち上がった。
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:新津 ゆき(南アルプスLOCO)
子どもたちに、大工という仕事を広めたい。
——–どういう経緯で「大工の会」を立ち上げたのでしょうか。
小林:商工会の勉強会がきっかけでした。建築業のデータで、大工の数が減っていくという数値を目の当たりにしたときに、「ああやっぱりな」と思いました。でも打開策がなかった。そんなときに参考にしたのが、ワインで有名な甲州市の若手醸造家がグループで活動をしているということを耳にして、大工というくくりで、そんなことができないか、と思ったことがきっかけでした。
野田:私も小林さんと同じ勉強会に参加していて、初めてその構想を聞いたとき、これはやるべきだと思いました。
望月:いろんな人と切磋琢磨しながら「地元にもいい大工がいるんだぞ!」ということをどんどん発信したいと思いました。大工には跡継ぎの問題もありますし、昔よりもはるかに地元の大工さんとのつながりは減っています。これをどうにしかしないとと思いました。
中込:私は望月さんから誘ってもらいました。私は工務店を経営していますが、木の建物を増やしていきたいと思っていましたから、大賛成しました。
依田:私は親父と一緒に仕事をしているのですが、付き合いのある職人しかしらなかったんですね。同じ職業の仲間を増やしていけるって、いいことだな、と思いました。
廣瀬:私はこの中でも一番若いのですが、父(野田)と一緒にイベントの手伝いをさせていただいているうちに、子どもたちにもこの大工という仕事を広めていきたいと思いました。
試行錯誤が楽しかった。
——–それぞれが独立して経営をされている中で、ぶつかりあいや苦労などはありませんでしたか。
依田:初めてやることばかりだったので、楽しかったですね。試行錯誤も楽しいというか。仕事にもつながりましたしね。
野田:活動自体が手探りでしたからね。そこが多少苦労したくらいで。地域のお祭りにも積極的に参加して、子どもたちへの職業体験なんかもやってきました。
望月:小林さんや野田さんが、商工会などでイベントの立ち上げや運営経験があったので、いろいろ教えていただきました。終わったあとの飲み会もとても楽しいですもんね(笑)。
廣瀬:フェイスブックなどにイベントの告知とかすると、結構反応もあるんですよ。
小林:大工の技術がなくても、家は建つ時代。それでも昔のいい技術っていっぱいあるんですよね。ポスター作ったり、勉強会やったり。いろいろやりました。大工を目指す人のパイプ役になれればと思っています。
地元の仕事が増えてきた!
——–実際に活動を開始されたのが2016年から。これまでの反響や反応はいかがでしょうか。
小林:やはり地元の仕事ができたことがとてもうれしかったですね。南アルプス市の本庁舎の改修工事で、地元の山から木材を切り出してきて、カウンター製作の発注をいただけたこと。これほど早く地元の、しかも自治体の仕事ができるとは思っても見ませんでした。
野田:大工の会では定期的に新聞の折込チラシを定期的にいれているのですが、「チラシ見たよ」って言われるとうれしいですよね。そこからの話で打ち合わせもスムーズになりました。
望月:私も「見たよ!」と言われることが多いですね。そのお声がけをいただくことで、仕事への自覚とか責任がさらに増したように思います。
依田:声をかけられることによって、「下手なことはできない」と思えますよね。
廣瀬:私は実際に声をかけられることはまだ少ないですが、それでも背筋が伸びますね。
中込:会社単体で何かをするよりも、やはり大きな目的を持って「大工の会」に所属しているので、お客様に安心感を与えることができているのかなと思っています。「大工の会」のブランド力を上げてきたいですね。
(後編へ続く)
南アルプス市 若手大工の会
小林孝一(左から3番目)
有限会社小林建築所 建築士/南アルプス市若手大工の会 会長
望月 啓(左から2番目)
株式会社ハウジングモチヅキ 望月設計事務所 専務/南アルプス市若手大工の会 副会長
中込智和(右から1番目)
有限会社中込ハウジング 一級建築士/一級建築施工管理技士
野田年男(右から3番目)
有限会社野田ホーム・NH一級建築士事務所 所長
依田祐城(左から1番目)
依田建築
廣瀬将泉(右から2番目)
有限会社野田ホーム
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