【働きがいこそ、ブランド構築 前編】
ブランド構築に関して、その数多くの書籍や論文は広告宣伝を中心としたコミュニケーション分野を中心に発展してきた。しかし今日のブランド論を形作ったアーカーの言うブランド構築の本質が、まずは従業員への理念の社内浸透と捉えると、ブランドのビジョンが一人ひとりに「腹落ち」することが重要になってくる。理念浸透がブランド構築、すなわち長期的な利益につながることが数多くの調査でわかってきている中、従業員と会社の方向性をどう揃えるのかという根源的な問いに対して、アドラー心理学の観点からこれを解き明かそうと迫っているのが嶋尾かの子氏。その方法論や最新の研究について聴いた。
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
理念浸透は、業績を上げる!
——–企業(ブランド)の理念浸透の重要性は、頭ではわかっているものの、その方法や本当に業績につながるのか、など、疑問が数多くあると思います。
理念浸透が売上に貢献するという調査で有名なのは多くの方が愛読されている「ビジョナリー・カンパニー」です。世界の「偉大な企業」を追いかけた詳細な事例研究が掲載されていまよね。また現在のブランド論をつくったアーカーが「社内外にビジョンを押し出した活動をした企業は、そうでない企業よりも収益性が優位に高かった」と発表しています。日本ではリクルートマネジメントソリューションズが「ビジョン共有力が実行力、変革力、知の創出力に相関し、その3つが業績と相関関係にある」と調査から導き出しています。さらに、企業理念の浸透が「ワークエンゲイジメント」や「職場の一体感」、「職務の遂行」、「創造性の発揮」、「積極的な学習」と正の相関関係にある(小林・江口・安藤・川上・TOMH研究会)こともわかっており、これらの指標が従業員の間で上がることによって、業績に影響するという仮説が導き出されると考えています。理念浸透が業績を上げるということが、もはや勘や経験で言われていることではなく、調査でも明らかになっているということが、最新の研究でわかってきています。
秘訣は社内の「ブランド実践™」を起こすこと。
——–その理念浸透の部分に、アドラー心理学が応用できる、ということでしょうか。
理念を掲げ、それを浸透させることで、企業が成長していくことは明らかになってきましたが、結局、理念を掲げても、絵に描いた餅では意味がありませんし、そこで働く従業員個人に浸透していかなければ、業績も上がりません。営業も、マーケティングも、プロモーションも、広報も、採用も、すべての企業活動は人によって行われるので、理念が浸透していない人が行えば、ちぐはぐで一貫性のない企業活動になってしまいます。大手企業であれば、マスを中心とした広告宣伝で従業員にも同じイメージを与えやすいので、ある程度補完できると考えますが、広告宣伝をあまり行わないBtoB企業や数多くある中小企業はでは、いつまで経ってもブランドはできていきません。では、どのようにして理念を個人に浸透させていくのか。そこでキーになるのが「ブランド・プラクティス™(ブランド実践)」という考え方です。これは私たちが名付けたものですが、「企業(ブランド)理念と自分の将来の目標が合致することで働きがいが生まれ、理念と個人の目標を叶えようとする主体的な行動が起こること」と定義しています。自分と会社の方向性や価値観、考え方が合致すれば、調査にもあるようにワーク・エンゲイジメント(働きがい)が生まれます。そうすることで、おのずと主体的に動く人たちが増えていくはず。という考え方です。この人数を社内で増やすことができれば、業績も上がりますし、業務効率も上がりますから、今言われている働き方改革にもつながるわけです。広告宣伝しなければブランディングできない、という誤解がブランド構築にはありますが、ブランド・プラクティス™(ブランド実践)を引き起こすことができれば、知名度や事業規模に関係なくどんな企業でもブランディングできるのです。
「信頼・尊敬・共感」=「チームワーク」。
——–アドラー心理学の考え方が具体的にどのように応用できるのでしょうか。
アドラー心理学は日本では子育ての研究や実践を通して主に応用され、広がりました。あまり多くは見られませんが、ビジネスにも応用できると私は考えています。アドラーはすべての悩みは対人関係である、と言っています。人と自分の関係性について、「信頼」、「尊敬」、「共感」、「共同体感覚」が重要であるとしているのですが、これをビジネスに置き換えると、従業員同士がお互いにこの4項目の関係性を築けることが理想です。そうすれば、その人自身も、やり甲斐を持って楽しく仕事をすることができます。また対組織に対しても同じように考えることで、つまり、自分と企業が同じ方向性を向いている、同じ価値観であると考えることで、企業と従業員の理想的な関係を築けると考えています。この考え方をブランド論に応用するならば、ブランド・マネジメントしていくときに重要なのは、企業(ブランド)の理念と従業員のベクトルを合わせていくこと。インナーブランディングの本質はまさにここなんです。それがブランド力の向上、ひいては業績のアップにつながっていきます。また、従業員同士がお互いに「信頼」、「尊敬」、「共感」しあっている組織では、当然「共同体感覚」が生まれます。この「共同体感覚」というのは、わかりやすく言えば「チームワーク」のこと。例えばスポーツで考えれば、結果を残す強いチームには「信頼、尊敬、共感」があると考えられ、だからこそ「チームワークがいい」と説明することができるのです。
(つづく)
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