【クリエイティブ・カンパニー ネイキッドのブランド論 第2回(最終回)】
映像制作から始まり、現在はプロジェクションマッピングまで幅広い制作事業を手がける「クリエイティブ・カンパニー」こと、株式会社ネイキッド。代表の村松亮太郎氏に、起業のきっかけやネイキッドの世界観などを、パーソナル・ベンチャー・キャピタル代表で、BRAND THINKINGでも連載を持つチカイケ氏が迫った。
聴き手:チカイケ秀夫 聴き手・文:ヤマグチタツヤ 撮影:天野裕樹
ネイキッドにとってのクリエイティブは「新しい価値」。
チカイケ:ネイキッドは「クリエイティブ・カンパニー」を会社として謳っていますが、ネイキッドにとっての”クリエイティブ”とはどういう意味合いなのでしょうか?
村松:正直にお話すると、分からないんですよね。20年近くやっていても、答えがないからまだ分からない。
むしろ、だからこそ逆に会社を続けているとも思っています。
そういうこともあって自分は「常にクリエイティブとは何か?」を問い続けている人間なのですが、時代は自分の感覚からすると逆へ向かっているなと感じることが実は多くて。
チカイケ:”逆”というと、どのような方向性でしょうか?
村松:世の中が「分かりやすいもの」を求め過ぎているんじゃないかなと思っているんです。
「それって一言で言うと?」っていうある種の情緒性に任せるような感性はもう大事ではない感じがするというか。
とはいえ、それでも「分かりやすいもの」こそが果たして正解かと言うとそうではないかなと。
先ほど口にしたように、私はクリエイティブに答えがないと考えているので、記号的に簡単に処理された分かりやすいものが必ずしもクリエイティブの正解とは限らないと思っています。
どっちが正しいではなく「どちらも抱えながら走るしかない」というのがある種のクリエイティブの本質なのかもしれません。
チカイケ:ちなみに村松さんの人生の中で、1番クリエイティブな体験はどのようなものでしたか?
村松:非常にコアな質問で難しいですね(笑)
先ほどのコンピューターの話は創造性そのものというよりは”武器”を得た感覚なので、少しクリエイティブとは違うんですよね。
何がクリエイティブな体験だったんだろう……(考え込む)。
チカイケ:先ほど話に挙がった『インディアン・ランナー』の監督であるショーン・ペンのような「俳優で監督」というのはクリエイティブだったのでは?
村松:あれは確かにクリエイティブだし、イノベーションだと思う。
そう考えると、クリエイティブって「一見突然でデタラメに見えつつも、実はそうじゃないもの」なのかなとも思います。
自分は普段から「含んで超える」という言葉が好きでよく使うのですが、それは「パッと見では分からないものに実は深い意味が含まれていて、それこそが既存の価値観を超える」っていう意味で使っていて。
ある意味、クリエイティブは一言でいえばそうした「新しい価値」なのかもしれません。
「裸」が強ければ、いつでもどんな時代でも、価値を発揮できる。
チカイケ:ここまでネイキッドのクリエイティブについてお聞きしましたが、そもそも「ネイキッド」とはどういう意味なのでしょうか?
村松:この言葉には意味を2つ込めています。
1つは「裸一貫」という意味です。
それこそ裸一貫の何もない状態から会社を始めたこともエピソードとしてはありますが、何も着飾らない素の状態を大事にするカルチャーや想いを大事にしているので、それを名前に込めました。
2つ目の意味は、「裸を鍛える」という意味。
先ほどお話したように、ネイキッドは時代やトレンドに合わせてテクノロジーや表現手法などは変えますが、伝えたい本質の部分は変わりません。
例えるなら、着る洋服の種類や色はその時々で変われど、結局それを纏う「身体」が貧弱では意味がないというイメージですね。
だからこそ、今もネイキッドは手法的なHowではなく、「何を伝えるのか?」「なぜ伝えるのか?」という本質を最も大切にしています。
チカイケ:その中で届けるべき「ネイキッドらしいコアな価値」とは何でしょうか?
村松:「創造性」ですかね。
「創造性を売る」という理念は、創業当時から掲げてきていたネイキッドの価値観です。
これは周囲から理解されなかった時代から現在まで、ずっと大切にしています。
そして、その理念を実現する中で大事にしていることが3つあります。
それは、「コアクリエイティブ」「トータルクリエーション」「ボーダレスクリエイティビティ」です。
チカイケ:それぞれ3つの意味を教えていただけますでしょうか?
まず「コアクリエイティブ」ですが、先ほどのネイキッドの名前の意味と同様に「この作品のコアはどこにあるの?」という考えを突き詰めることを指しています。
「手法を問わないので、あなたは何を作るの?」という”コアを考えるスタンス”はネイキッドの中に常にあります。
次に「トータルクリエーション」。これは「世界観を統一すること」です。
具体的には何か1つの作品を作る上で、広告代理店・制作事務所…とプレイヤーを分けるのではなく、うちがワンストップでやることでプレイヤー間の作品の世界観に対する意思疎通の齟齬が生じないようにすることを心掛けています。
ロゴ作りから脚本、映像制作まで一気通貫して世界観を表現することで、先ほどの「含んで超える」という”ネイキッドだからこそのクリエイティブ”が実現していくイメージです。
最後の「ボーダレスクリエイティビティ」とは、リアルとバーチャルの交錯などを筆頭にした「境界線を超えること」を指します。
パソコン越しに飲み会を開く「オンライン飲み会」などから見えるように、もはやリアルとバーチャルの境目が段々と無くなってきています。
こうした”時代の流れの波”をどうキャッチしてどう乗っていくのか?というところがとても大切で、「作品のコアを表現するために、こうした境界線の捉え方や発想を既存の価値観に捉われずに変えていく」ということをネイキッドらしさとして大切にしています。
チカイケ:こうした価値を持って、会社としてここからどのように進んでいきたいというイメージはありますか?
村松:形はどうあれ、やはり常に”時代の流れの波”に乗れるようにしたいなと考えています。
僕は「たゆたう」という言葉をよく使うのですが、これが非常に難しくて。
この言葉は「波に揺れる」という意味であるものの、波に常に合わせないといけないから、僕らも常に高いスキルを持たないといけないんですよね。
しかも、その波は自然が作り出すものだから逆らってはいけない。
そうした難しさの中でも、常にネイキッドらしさを込めつつ、世の中が求める価値を提供し続けられたらと考えています。
こうしたスタンスの中、僕らがあがいてもがいて作った作品がきっかけで、それを見た誰かも”裸一貫”で自由に自分のアイデンティティと時代のトレンドを織り交ぜながら生きていけるようなヒントになるならば、大変嬉しい限りです。
(おわり)
代表取締役 村松亮太郎
アーティスト/NAKED Inc.代表/大阪芸術大学客員教授/長野県・阿智村ブランディングディレクター。
1997年にクリエイティブカンパニーNAKED Inc.を設立以来、映画/TV/MV/広告/空間演出など様々なジャンルでのプロジェクトを率いてきた。監督作品は長編/短編作品合わせて国際映画祭で48ノミネート&受賞。近年では「FLOWERS BY NAKED」「TOKYO ART CITY BY NAKED」に代表される体験型アートイベントを手がける。
また、華道/茶道/香道/歌舞伎/能狂言といった伝統文化・芸能と先進の表現を掛け合わせたショーや、長野県・阿智村をはじめとする日本各地での地方創生イベントや文化プロジェクトに取り組むなど、自身の作品、そしてあらゆる人・場所とのコラボレーションを通して新たな価値と体験を生み出している。
作品集に『村松亮太郎のプロジェクションマッピング SCENES by NAKED』(2015, KADOKAWA)がある。
・NAKED Inc.公式サイト:http://naked-inc.com
・NAKED Inc. Twitterアカウント:@NAKED_STAFF
・NAKED Inc. Instagramアカウント:@naked_inc
・村松亮太郎公式フェイスブックページ: https://www.facebook.com/MuramatsuRyotaro
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