クラウドファンディングは、インターネット時代における新たな資金調達手法として注目を集めている。しかし、クラウドファンディングのメリットは、資金調達だけにとどまらない。リリース前から共感を集めることができるというブランディングにおけるメリットも見逃せない。「クラウドファンディングのメリットはブランディングにある」という仮説を、クラウドファンディングを実施した経営者へのインタビューを通じて検証していく。
▲川のhotori用瀬の外観
「川のhotori用瀬」は鳥取県鳥取市(旧用瀬町)にて築100年の古民家をリノベーションして2016年にオープンした。鳥取市中心市街地の人気カフェ「MIRAI」の2号店だ。
鳥取市は広い。いわゆる平成の大合併の折に、周辺の山間地域を手広くまとめたからだ。旧用瀬町は鳥取市の最南端にあたる。用瀬町は「ひな人形の発祥地」として知られる場所だが、各地と同様に過疎化が深刻。3500人の人口のうち半数は60歳以上。事業所数も減少の一途である。市街地からは車で30分ほどを要する。
以上のようにビジネス劣勢地である用瀬町にて「川のhotori用瀬」をオープンするにあたって、店主・山根実さん(35)は住民を巻き込んでいくことが必要だと考えていた。
そのための方策が、100年前に失われた用瀬町の和菓子「あんころ」の復活と、そのためのクラウドファンディングだった。地域内におけるブランディングにおいてクラウドファンディングがどのような効果をもたらしたのかを山根さんに聞く。
田舎で「偽物」は通用しない
――――「川のhotori用瀬」はオープンしてから3年目となりましたが、今の状況を教えてもらえますか?
▲川のhotori用瀬の店主・山根実さん(姉妹店のMIRAIにて撮影)
地域におろした根がよりいっそう深くなっています。オープン時の繁盛は、市街地や近隣県からのお客様によるものでした。それも落ち着きました。一方で今は、ご近所さんのご利用で予約が埋まっています。
用瀬町は、会社もお店も無くなる一方でしたが、「川のhotori用瀬」がその流れを変えたと感じています。当店の裏に新しいカフェができましたし、週末だけ営業するケーキ屋さんもできました。駅前にはクリエイターの集まるビルもできました。当店だけでは、用瀬町という山間地域に人を集められません。みんなと協力して盛り上げていきたいと思っています。
――――クラウドファンディングで資金調達した「あんころ」について説明していただけますか?
▲復活した用瀬名物の和菓子「あんころ」
宿場町として栄えた用瀬町で、100年前まで愛されていた和菓子です。寒天の皮で餡子を包んだ涼し気な見た目が特徴です。
「川のhotori用瀬」のリピーターを増やすために提供を思いつきました。通常の飲食店だと、飲食して帰ったらそのお店のことを忘れてしまいますよね。けれども、お土産として持ち帰れる品を提供したらどうでしょう?その品を家で食べながら、お店のことを思い出してくれるはずです。それに、お店に来た人の周囲にもお店のことが伝わります。
当店では、用瀬町にちなんだ煎茶やコーヒーを提供しています。せっかくなら、お土産も用瀬町にちなんだものを提供したいということで、用瀬町で愛されていた和菓子「あんころ」を提供することにしました。
「あんころ」のことは図書館で調べものをして知りましたが、製法などは残っていませんでした。ただし、食べたことのあるお年寄りはまだ町内にいらっしゃいました。そこで、そうした方々にお話をうかがうことで、「本物」として認められる商品の再現を目指しました。
――――製法が残っていないのなら「新あんころ」を売り出しても良かったのではないでしょうか?
都会ならそれでも良いのかもしれませんが、用瀬町のような田舎では上手くいかないやり方です。なぜなら、良くない噂はすぐに広まってしまうから。住民はコミュニティという信頼感のある情報ネットワークでつながっていますから、情報の伝達速度はSNSよりもよっぽど早い。「新あんころ」として売り出しても、「偽物」という風に評判が広まってしまっていたでしょうね。そうなってしまってはお店のブランドが台無しになります。
逆に言えば、良い噂もすぐに広まります。当店は、「本物」を真剣に目指しました。町内のお年寄りから聞き取り調査をしましたし、一緒につくってみることもしました。そうした行動についての評判が広まり、応援してもらえるお店になっているとも感じています。
地縁が強い地域でのブランディングでは「誠実」がキーワード
高齢者は肌身に感じられる距離感における情報感度は高いことがインタビューからうかがえた。地縁の距離感と信頼感によって高速かつ強固に情報交換がなされるのだろう。そこでは「本物」と「偽物」が厳しく検証される。地方におけるブランディングで共感を得るには「誠実」であることが大切なのである。
次回では、共感を得るための方策として打たれたクラウドファンディングについて迫る。
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