ブランド戦略論「起源の忘却」を読み違えてはいけない。
「忘れられていい」が独り歩きすると、一貫性は失われる。
昨年12月に刊行された中央大学ビジネススクール教授、田中洋氏の「ブランド戦略論」(有斐閣)は、日本発(初)のこれまでのブランド論の集大成的な書籍。これまでの研究の歴史を細かく、厳密にレビューし、500ページ以上の大作に仕上げられています。その中に出てくる「起源の忘却」という概念について解説をしていきたいと思います。
本書では「起源の忘却」を「ブランドによってイノベーションが起こり、その本来の意味をユーザーが忘れ、異なる新しい意味に変わっていったもの」という解説がなされています。例えば、マクドナルドのハンバーガーという「発明」の起源はいつか忘れられ、生活の当たり前になることで、ブランドとは成長していく。解説すればそういうことです。
注意しなければいけないのは、「ブランドの起源は忘れ去られることによって大きくなっていく」ということの間違った解釈が生まれることです。こう考えてしまうと、企業側の「ブランド・マネジメント」を行う人間は「なにをしてもいい」状態になります。ということは、結局「広がればいい」、つまり「売れればOK」という考え方です。そうなると、ブランドの一貫性は当然失われる可能性があるということです。
起源の忘却という概念は、ブランドが大きくなっていく「現象」を、俯瞰的に捉え、解説していると考えなければ自らをミスリードしてしまいます。本書は一貫して研究者の立場からブランド論を俯瞰した立場を貫いています。これを実務家が自らの仕事に取り込もうとしたときには、「ブランド・マネジメント」の側面として一度捉え直さないと、痛い目にあう説明がたくさんあります。
ちなみに現在のブランド論は、これまでも何度も説明してきましたがアーカーによって形作られています。1991年に「ブランドは企業における資産である」と断言した「ブランド・エクイティ論」から始まりました。それを補完したのが共同研究も行っていたケラーです。ケラーの提唱した「ブランド・レゾナンス・ピラミッド」は「ブランドに顧客が共鳴する状態」を理想的な状態と置きました。
アーカー自身がコンサルタントだったこともあり、アーカーの唱えるブランド論は企業側が「どうブランドをマネジメントしてくか」という側面が強いと考えられます。ケラーは「顧客ベースのブランド・エクイティ」を提唱したこともあり、顧客寄りの視点からアーカーの提示した「ブランド・エクイティ論」を補完しました。
今回の「ブランド戦略論」はそれらの研究も踏まえ、日本発(初)、最新のブランド論の「教科書」として機能しますが、実務家にとっては、しっかり「マネジメント」の観点から捉え直し、実践する必要があるでしょう。
文:BRAND THINKING編集部
- 「◯◯ブランディング」というミスリード。
- 「この媒体ならブランディングできる」は大きな間違い。
- BtoB企業が採用に苦戦する訳と勝てる唯一の方法。
- BtoB企業こそ、ブランディングが必要な理由。
- アイデンティティがないから、ブランドにならない。
- イノベーションはブランド化しなければ意味がない。
- ターゲットを明確化することで、 本当に伝えるべきことが見えてくる。
- ターゲットを明確化できない病。
- だからブランド構築はうまくいかない。
- なぜインナーブランディングは進まないのか。
- なぜブランディングで売上が上がるのか。
- なぜブランドにビジョンが必要なのか。
- なぜ一貫性を保つのは難しいのか。
- ブランディングを、数学の証明のように説明する。
- ブランドが「資産である」とはどういうことか。
- ブランドが消える理由。
- ブランドとブランド構築の違い。
- ブランド構築はお金次第か。
- ポジショニングが大事か、リソースが大事か。
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