【コルクのブランド論 第2回】
出版という伝統的な業界で、新しい風を吹かせている企業がある。佐渡島氏は、講談社で次々と大ヒット作品を手がけた編集者。その佐渡島氏が、講談社を飛び出して2012年につくった企業がコルク。「編集とは、伝わる順番をしっかり考えること。クリエイターの側からそれを考える集団、大きな軸をつくりたかった」と話す佐度島氏。多くの売れっ子クリエイターを抱え、ヒットを繰り出し続けるコルクの土台となる理念や今後の展望について聴いた。
経営者にも、編集者が必要。
——–佐渡島さんのお話をお聴きしていると、編集者としての経験を経営にとても応用されているという感じがします。
経営もひとつの技術だと思います。例えば経営者の器によって、企業の成長も決まる、という話がよく言われます。でもなかなかそれを理解できない。僕だって、講談社でいち会社員だった時は、社長の器と企業の大きさが関係しているとは思いもしませんでした(笑)。でも偉大な結果を残している先人たちが、みんな言っていることでもある。
理念を決めるということも同様です。みんなそれをやったほうがいいと言うし、かの有名な「ビジョナリー・カンパニー」にもちゃんと書いてある。僕はそれを実践しているだけ。(前回話に出た)コピーライターに理念の言語化を頼んだのも、経営者には対話相手が必要である、ということがいろんな経営者が言っていることでもあるから。一流の作家にも、編集者が必要なように、経営者にもきっと必要なんだと思います。
僕は、多くの人がいいと言ってることはわからなくてもやってみる。それを貫いているだけです。
長期的視点で見れば、価値のあるものなんてない。
——–コルクの強みとして、「楽しむ力」、「ITの力」、「チーム力」と規定されています。このあたり、どんな思いでつくられたのですか。
まず「ITの力」に関しては、クリエイターや作品の情報を、ダイレクトに、タイミングよく伝えるための手段として考えています。そのために私たちは従来のアナログ的な、媒体と読者という手法だけにとどまること無く、ITを駆使していかなければならないと思います。CTOとして萬田(@daisakku)がいることは大きな強みです。次に「楽しむ力」に関してですが、結局すべてのことは無価値だという考え方です。例えば、「地球に優しく」という言葉があったとして、今ならほとんどの人が共感できることなのだと思うのですが、地球ができたばかりの頃に遡れば、ほとんど二酸化炭素だったわけで、植物ほど害があるものはなかったはずです。長期的な視点で見れば、何が正しいとか、間違っているということはありません。ということは自分の人生で、価値があると思っていることも、すべて思い込みに過ぎないんです。だとしたら、目の前の全てを楽しむ力を持ったほうが、全部楽しい時間で終わるじゃないですか。みんなで楽しく人生を過ごしていこうと。そういう仲間が欲しいと思いました。3つの目の「チームの力」ですが、結局人はひとりで生まれてきて、ひとりで死ぬんです。だとしたら、生きている間は喜びとか、悲しみを分かち合うほうが楽しいですよね。
自分から「さらけだす」ことが、チームをつくる。
——–コルクの行動指針は「さらけだす」、「やりすぎる」、「まきこむ」と、とてもユニークな言葉が並んでいます。
まず自分のことを知るには、誰かにアウトプットして反応をもらわないと、自分の強みがなんなのかわかりにくいですよね。話してみることで、思いがけないダイヤモンドの原石を自分の中に見つけられるかもしれません。人が「それ光ってない?」と言うことで、自分の強みに気づく。だからこそ、「さらけだす」ことがまずは重要だと思うんですね。そしてチームになっていくには、全員が腹を見せ合わないとダメ。相手が見せてくれないと自分は見せないじゃ、永遠に誰も腹を割れないんですよ。自分が先に見せるよ、というマインドが必要。それによって、ここは仲間がいる場所なんだ、という心理的安全が確保されるんです。お互いに知って、安心し合う中で、信頼って芽生えていくんだと思います。これはクリエイターと編集者の関係性でも同じで、クリエイターは作品で自分をさらけ出します。そしたら編集者は、作品から自分のどんな記憶や経験が思い出されるか、昔、この本があったから助かった、とかそういうすべての経験を棚卸しするんです。それが世の中に届く順番でのストーリー展開とか、プロモーションの流れを構築することにつながっていきます。
第3回<最終回>は9/25(月)に公開します。
聴き手・構成: BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
佐渡島庸平
株式会社コルク 代表取締役社長
twitter:@sadycork
2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを設立。現在、漫画作品では『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『テンプリズム』(曽田正人)、『インベスターZ』(三田紀房)、『昼間のパパは光ってる』(羽賀翔一)、小説作品では『マチネの終わりに』(平野啓一郎)の編集に携わっている。
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して弊社は一切の責任を負いません。