高知県のブランド・コミュニケーション研究 【一貫性が活性化を生み出す 第2回】
地域創生の言葉に乗って、多くの地域がプロモーションを競い合っている。その中で、もう5年も同じコンセプトでコミュニケーションをし続けているのが高知県。高知県のヒト・モノ・コトの情報発信施策として「高知家プロモーション」がスタートしたのが2013年。毎年コンセプトが変わり、プロモーションの見せ方や手法を変えることの多い自治体プロモーションにおいて一貫性を保っている稀有な事例だ。「高知家プロモーション」を立ち上げ、主導してきた一般財団法人高知県地産外商公社の小笠原氏にその背景や効果などを聴いた。
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
県内の認知率は1年目で9割を超えた。
——他の自治体のプロモーションとは違うのは、その継続性だと思うのですが、もう今年で5年目になりますね。
いわゆるナショナルブランドみたいにふんだんな予算があるわけでもありません。その度に毎年コンセプトを変えれば、当然表現のトーン&マナーも変わります。それだと毎年印象が変わるので、何も積み上がりません。高知県内での「高知家」認知率は1年目で9割を超えました。本質的な部分でコンセプトが設定されているので、県内の多くの人たちからも共感を得られたのではないか、と考えています。ただ家族というのはどんな地方でもやれる「ネタ」なんですけどね。いわゆる「言ったもん勝ち」みたいなとこがあります。冷たい人ばかりの地域なんて、あったら行ってみたいくらいですから(笑)。
地元の人たちではあたりまえすぎて良さに気づけない。
——毎年少しずつスローガンが変わっていますが、当初の読み通り、「高知家」というコンセプトを大きな傘にして、いろんな展開を行っています。
「高知家」という大きなくくりの中で、昨年の後半くらいから、観光、移住、物産などと情報を展開させていきました。ただ、同じく県が運営しているといってもそれぞれ観光、移住、物産のサイトに飛ばした時に、表現のトーン&マナーの統一感に欠けていたと思います。それぞれが訴求したいポイントやトーン&マナーも違って当然ですので、それをなんとかひとつにしようと試みたのが、高知県のまとめサイト「高知家の◯◯」です。キュレーションサイトなら、どんなテーマが入ってもいい。ポイントは県外の人たちから見た高知県。プロのライターが取材して記事を書いています。彼らは必ずしも高知県出身者や在住者ばかりではありません。そういう視点が入ることで、単に地元にいる人たちにはあたりまえすぎて気づけない良さが記事になってきます。例えば地域活性で開発された商品のパッケージって、筆文字を使うなどして、田舎らしさを醸し出す空気感をまとったものが多いと思います。でもそういうのを、例えば県外から来た人は求めていないかもしれないし、第一「あ、どの地域でも同じだな」と思われてしまう。「どう見られたいか」ということを考えることはとても大事なことだと思います。
【高知家プロモーションの歴代スローガン】
2013高知県は、ひとつの大家族やき。
2014高知家のええもん、ぜーんぶおすそわけやき。
2015高知家の家族は、みんながスターやき。
2016高知家には、ポジティブ力がある。
2017高知家は、いろんな家族で大家族
感覚的に見えて、どう見られたいかをロジカルに組み立てる。
——他の自治体が、観光や物産品自体でプロモーションをしている中で、高知県は異質です。
だいたい地域プロモーションって3つの大きな傾向があると思っています。パロディ的なもの。自虐ネタ。お年寄りと孫が笑う。この3パターンです。そして行政は3年くらいで人事異動で担当が入れ替わるので、一生懸命みんなやっているんですが、異動ごとに0スタートになりがちです。また広告の表現的な部分では、小学校1年生でも、プロのデザイナーでも、好き嫌いだけで話せば何でも言えるわけです。だからこそ、一見感覚でやっているような表現も、細部にまでこだわり、かつロジカルに組み立てる必要があると思っています。内部だけのノリや感覚でやってしまったり、または代理店任せになってしまうと、うまくいきません。
予算がないなら、どうすれば話題になるかを必死に考える。
——その点、高知県の場合は小笠原さんが一貫して担当されているのが、強みにもなっていますね。
他の自治体と大きく違うのは、自治体がプロモーションを主導しているのではなく、公社にいる私たちに委託している点です。前述の人事異動の件もそうですが、この構造があるからこそ、一貫性が出ているのだと思います。いろんなプロの力を借りますが、しっかりと中心の軸はブラさずにディレクションすることを心がけています。高知県よりも遥かに多くのプロモーション予算を使っている自治体はあると思いますが我々はCMや新聞などいわゆるマス媒体をバンバン使うことは出来ません。ですので必然的にWebが中心になります。そしてどういう企画をすれば、メディアが興味を持って取り上げてくれるかを考え抜いています。もちろん記者のみなさんとは常に仲良くです(笑)。例えば、朝日新聞の全国版に掲載されるハードルは非常に高いのですが、地方版なら結構取り上げてくれます。そうなるとWeb版に掲載される。するとヤフートピックスに取り上げられることだってあるんです。急がば回れじゃありませんが、そういうところまでイメージしてプロモーションを組み立てていますね。
第3回<最終回>は8/10(木)に公開します。
小笠原慶二
一般財団法人高知県地産外商公社 プロモーション戦略局 局長
高知県出身。東京でIT業界やマーケティング業界でキャリアを積み、2010年より一般財団法人高知県地産外商公社へ。2013年4月より現職。高知家統一セールスキャンペーン推進本部総合プロデューサー、高知県商工労働部地域プロモーションアドバイザー、志国高知幕末維新博推進協議会SNSプロモーションアドバイザーなども兼務する。
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