【ブランドづくりのコトバ脳 vol.2】
第1回目は『ウォシュレット』をテーマに、機能するネーミングのヒケツをひも解いていきましたが、今回は小林製薬の『トイレその後に』を教材に、突き抜けたブランドのつくり方を探っていこうと思います。
意図せず、オシリからオシリへとバトンが渡った2回目です。
「幕の内弁当」の甘い罠
ブランドのつくり手は、なにかと欲張りになってしまうもの。できるだけ多くの人に選んでもらいたいから、「こんな時にも使えますし、あんな時にも使えます」というカタチで、いろんな人のいろんな場面に寄り添おうとする。それはそれで至極当然ではあるのですが、こと消費者向けのコミュニケーションに関しては、その思考で突っ走ってしまうと危険です。
これはCMやポスター、POPなど広告プロモーションの制作現場で起こりがちなことですが、「あれも言いたい」「これも言いたい」と伝えたいことを押し詰め、限られた秒数や限られたサイズの中で情報過多になり、消費者の印象に残らないということがあります。
こうした状態を、業界内では「幕の内弁当になっている」と称したりするのですが、あの日本を代表する作詞家も「記憶に残る幕の内弁当はない」と言い切っているように、アレもコレも押し出そうとすると最終的に個性のないのっぺりとしたものになって、記憶に残りにくくなります。
絞る→尖る→刺さる
この「幕の内弁当化現象」は、どんな商品・サービスでもけっこう陥りがちなもの。そんな状況を避けるには、腹を据えて「打ち出すべき軸」をたったひとつに絞るということに尽きます。それはブランド完成後に展開する広告プロモーションに限らず、ブランドを立ち上げるコンセプト設計段階にこそ、実はやっておきたい儀式です。
そうした視点から、「非・幕の内弁当」をキレイに体現しているのが、『トイレその後に』というネーミング。「トイレの後」と、商品を使うシーンをこれ以上ないくらいにはっきりと限定しています。これが、「いろんな場面の消臭・芳香に役立ちます!」というスタンスだと、世の中に多くある消臭機能を持った商品とのバトルを強いられてしまうもの。自分から、小さいけれど勝てる土俵に腰を据えるという戦法です。これをネーミングの段階から銘打つことで、商品のポジションをはっきりと内外に宣言できるメリットがあります。
ブランドをつくる時にこそ、最初(コンセプトやネーミング段階)で商品の軸を「絞る」こと。それによって、より商品特性に尖りが生まれ、その結果、消費者に刺さりやすくなるのです。
さいごに
書籍を例にとってみましょう。200ページで構成されたビジネス書を読んだとしても、その中で記憶に残ってるのって、せいぜい1~2行ぐらいだったりすると思います。そもそも人は、ひとことぐらいしか覚えられない。その前提にたって、ブランドの軸を絞り、洗練されたONE VALUEを世の中に送り出した方が、モノであふれているこの時代、ポジションが築きやすいのは明らかなはずです。
可能性を広げる、のではなく、可能性を捨てる。その、捨てる作業こそが、世の中に認知される「ブレないブランドづくり」の一歩と言えるのかもしれません。
オマケ:ネーミング的に「トイレその後に」のここがスゴイ!
今回は、ブランドづくりの視点からこの製品に迫ってみましたが、ネーミングのテクニックとしても優れているので、ちょっとだけ触れておければと思います。
1:違和感を武器にする
通常、多くのブランドは「短い固有名詞」で構成されている中、この長く、一見すると普通の文章のようなネーミングは、読み手にちょっとした違和感をもたらし、かえって記憶に残すことに成功している!
2:コミュニケーションを節約する
商品名そのものが、商品の特性を語るキャッチコピーの役割も兼ねていて、機能性商材において欠かせない「どんな時に使う商品なのか?」というシーン説明を、広告販促物(ポスターやPOPなど)を使わずともネーミング単独で訴求することが可能に!
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して弊社は一切の責任を負いません。