競合を見ない、という菅谷氏の論は正しい。
先日、「キリン生茶が販売終了寸前から再ヒットした理由」というダイヤモンド・オンラインの記事が掲載されました。ブランド論の本質がわかりやすく、シンプルに書かれていました。今日はこの記事を土台に、よりブランド論的な見地から「なぜ成功したのか」を読み解きます。
まず、注目すべきは「競合を見ない」という菅谷氏の持論です。キリンのような大手企業でこれが言えるのは、菅谷氏がまさに生茶を再生させたからに他ならないと思うのですが、ブランド構築をしていくときに、できないけど、実は一番大切な核心を突いています。競合を考えてしまうと、どうしても「競合がこうしたから」と、それに「対応する変化」をしてしまい、短期的には結果を出すかもしれません。
しかし、競合が変化すれば、またこちらも変化せざるを得ず、これでは、ブランドに一貫性がなくなってしまいます。また、自社の風土、環境にあわない戦術は、長期的には続きません。菅谷氏はこれを、「現状を追認し、少し変える程度の変化しか実現できない」と記事の中で語っています。
そこで、菅谷氏はお茶の歴史を調べ、それを自社で実現できないか、と考えます。これは生茶ブランドそのものを捉え直す大転換にもなりえること。勇気のいることです。しかし、「お茶」の新しいブランドを生茶からつくる、という大きな視点に立てば、これはまさに本質を捉えています。
生茶のアイデンティティ(=ビジョン)を再定義。
生茶葉という「生」にはあくまでこだわり続けた上で、まず、菅谷氏自身がなにを生茶の「アイデンティティ」と置くか選択し、自社の技術で実現できないか探っています。記事には書いてありませんが、顧客とともに目指す未来=「ビジョン」をあえて定義すれば、「昔からある伝統的なお茶の飲み方を、今の技術で生茶から広める」というようなビジョンが出来上がるはずです。
ここができれば、キリンほどの人的、予算的資産があれば、あとはブラさずに、プロモーションや営業展開をすればいいとなります。元ダイレクトマーケティング学会会長で、明治大学でマーケティングなどの教鞭をとった上原征彦氏も言っています。「シェア拡大、差別化双方に効く最強の戦略はブランド戦略だ」この基本を、大企業のなかにあって、まっとうさせることができた菅谷氏や、その上司のみなさんの勝利なのだと思います。
生茶の再ヒットは、ブランド論的には必然だったと言えるのです。
文:BRAND THINKING編集部
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