【カヤックのブランド論対談 第3回】
カヤックは言わずと知れた日本で最も有名なIT企業のひとつ。複数代表を置く共同経営の先駆けでもある。2014年に上場し、受託事業やゲーム開発だけでなく、ウエディング、葬儀など近年はさまざまな事業を手がけている。ユニークな人事制度、本社・鎌倉へのこだわりなど、独自の文化を持つ企業だ。その背景にある考え方とは何か。代表取締役CEO柳澤大輔氏に、BRAND THINKINGで連載も持つ、パーソナル・ベンチャー・キャピタル代表・チカイケ秀夫氏が聴いた。
「卒業」は手放しでうれしい。
チカイケ:リクルート出身者は起業家が多いですが、カヤック出身の人たちも独立して活躍し始めています。
柳澤:外に出て活躍していることは、本当にいいことだと思います。これはどんどん広げていきたいですね。
チカイケ:まさに、「つくる人を増やす」が実践されていますね。
柳澤:何でもおもしろがる文化を広げていってほしいですね。そのほうが世の中も明るくなるじゃないですか。
チカイケ:育てた社員が出て行くのを、歓迎しない会社もあります。
柳澤:自分も会社をつくってとてもおもしろかったので、そのあたりは抵抗はないですね。
チカイケ:ホームページに退職情報を掲載しているのも独特のカヤック文化ですよね。
柳澤:全員とは言わないですけど、ニュアンス的にはほとんどみんな「卒業」です。
株主とブレスト。自分たちらしく業績を上げていきたい。
チカイケ:2014年に上場して、それまでと何が一番変わりましたか。
柳澤: 社外との接点が明らかに増えました。僕らは何かを生み出して、「おもしろい!」と言ってもらえることを生業としています。そこに僕らの価値がある。株主という数千人がいつも注目してくれているので、反応が早いですよね。
チカイケ:おもしろいと思って出したものに、反応がないと、悲しいですもんね。
柳澤:そうですね(笑)。反応があることで、事業にもいい面があります。いろんな意見をもらえることで、僕らの視野が確実に広がります。
チカイケ:賛成がある反面、当然反対もありますよね?
柳澤:もちろんです。でも批判と賞賛、どっちもあるからいいんだと思います。それだけインパクトがあるということですから。
チカイケ:当然、株主は増収増益を求めると思いますが、それでやり方が変わるようなことはありますか。
柳澤:目的にはこだわるけども手段を選ばないのではなく、やっぱりプロセスにはこだわりたい。その考え方は貝畑も久場も一致しています。
チカイケ:カヤックらしい取り組みとしては、株主と直接ブレスト、という試みもしていますね。
柳澤:昨年は、抽選で30人くらいとやりました。社員も一緒に参加しました。そこでも、カヤックらしくやってほしいと言っていただける方もいました。
ブレストすると、小学生も主体的に収支計画をつくる。
チカイケ:「カマコンバレー」の取り組みは、鎌倉への愛着を表しているだけでなく、CSRやCSVとしての取り組み事例ですよね。
柳澤:僕らが「面白法人」や「つくる人を増やす」という発信をしていても、さすがに小学生には伝わりにくいと思うんです。サイコロ降って給与決めるとか、小学生には意味がわからない(笑)。一緒にブレストを通して、サービスを生み出していくと、それが少しでも分かってもらえるんじゃないか、と思うんです。「カマコン」の活動はもう4,5年になるでしょうか。
チカイケ:ブレストを小学生にっていうこと自体も、とても斬新ですし、カヤックらしいですよね。「鎌倉はちみつプロジェクト」もカマコンでの取り組みなんですよね。
柳澤:はい。あれもブレストから出てきたアイデアです。はちみつをただ売ってもおもしろくない。大人と子どもが一緒になって、地域経済に貢献するものをつくったらどうなるだろう、という試みです。子どもだけで収支計画つくったり、マーケティングしてみたり。どんどん主体的になって行きますよ。
チカイケ:求められれば高校にもブレストを教えていっているんですよね。
柳澤:そうですね。ある高校では、ホームルームをブレスト形式でやっているようです。今は口コミで広がっていて、とくにサービス化はしていないんですけどね。ホームページつくってもいいかもしれない(笑)
チカイケ:これもまさに「つくる人を増やす」というカヤックなりの活動ですよね。
柳澤:僕らの経験上、ブレストをすると、自然とみんなが意思決定に参加するようになるんですよ。そこに立場も肩書も関係ない。経営のことをみんなオープンにして、ブレストやれば、主体性って生まれて来るもんだと思いますよ。
チカイケ:自分たちの知を地域に還元する懐の深さがすごいですね。カヤックの成長の秘密が感じられたような気がします。お忙しい中、ありがとうございました。
(おわり)
聴き手:チカイケ秀夫 構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
株式会社カヤック 代表取締役CEO 柳澤大輔(写真右)
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメント入社。1998年、大学時代の仲間であり、現CTO貝畑政徳、現CBOの久場智喜とともにカヤック設立。「サイコロ給」や「スマイル給」など、独自の価値観に基づいたユニークな人事制度、「旅する支社」などワークスタイルを発信。2012年カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル審査員。著書に、「面白法人カヤック会社案内」(プレジデント社)、「アイデアは考えるな」(日経BP社)など。
パーソナル・ベンチャー・キャピタル 代表 チカイケ秀夫(写真左)
デザイナーの経験を経て、株式会社GMOで新規事業などさまざまな事業を経験。2015年よりパーソナル・ベンチャー・キャピタルの代表として活動開始。スタートアップ企業にブランディングを広めることを使命に、数多くのサポートを行っている。さまざまな企業のチーフ・ブランディング・オフィサー(CBO)を務める。
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