駒澤大学経営学部教授 青木茂樹
【理論と実践のブランド論 第3回】
論文や著書、コラムなど積極的に知見を発表する一方で、自らNPOを立ち上げ、理事長として地域活性に取り組む青木氏。「NPO法人やまなしサイクルプロジェクト」のイベントは1000人以上を集める大きなうねりに成長している。その裏側には自らが提唱する「クロス・バリューチェーン」を軸とした「サステナブル・ブランディング」という確固たる理論があった。教授でありながら理論と実践を体現する青木氏に、その意図、背景、そしてブランド論についてたっぷりと話を聴いた。
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
ヨコでバリューチェーンをつくれ!
(前回、やまなしサイクルプロジェクトの話から、そこで実践されているクロス・バリューチェーンの話になりました)
——–ヨコのバリューチェーン、つまり先生の提唱する「クロス・バリューチェーン」ですね。
特に地域に関してはお互いが地理的に近い関係性を活かしていくことが重要と考えます。顧客、大学、行政、企業、地域住民、NPOやNGOなど、さまざまな組織が連携して、力を合わせていく戦略です。そのためには、お互いに価値観の異なる組織ゆえ、フラッグシップが必要です。これは全員が目指すべき、ビジョン、もしくは力を合わせるべき使命と捉えてもいいかもしれません。対面とインターネットで相互補完しながら、コミュニケーションを積み重ねていきます。成功している地域活性には、実はみなこれができている共通点があります。今年で10年目の山梨のワインツーリズム、北海道ガーデン街道、瀬戸内の「ONOMICHI U2」。いろんな組織を巻き込んで、地域活性が持続しています。やまなしサイクルプロジェクトも、この「クロス・バリューチェーン」を念頭に、活動で実践しています。
ダイナミックにマーケティングの真理を追求したい。
——–ご専門は流通ということですが、マーケティングの著書も出されています。
大学院にいた頃からマーケティングについて研究していたんですが、私はどちらかというと消費者行動に代表されるような実証的なものよりも、人間の深層の行動原理をを追求するほうに興味を惹かれました。専門で言うと科学哲学という分野になります。例えば、カラスが黒いってとどう証明しますか?実証主義では100匹、1000匹と数を積み重ねてより確からしいと証明するわけです。でも分母が無限であるとき、いくら積み重ねてもキリがありません。それよりも白いカラスを見つければ、一気に「カラスが黒い」は崩れていきます。例えば、百貨店。今から150年ほど前にできあがってきたけど、なぜその頃支持されたんでしょうか。これは私の仮説ですが、当時は工場がいくつもできて、女工が誕生した。ガラスのショーケースに見たこともないドレスが入っている。夜になればライトアップされて自分の姿も映る。当時、鏡は特権階級だけのもの。初めてガラスごしに映る自分の姿を見て「もっとおしゃれしたい、美しくなりたい」という気持ちが植え付けられたんですね。それが購買意欲を煽ったのではないでしょうか。今あることを批判的に捉えて、人間の深層の行動原理を追求し、それに向けた仕組みていくことにダイナミックさを常に感じていました。だから今も「流通」という大きな社会的しくみを研究していくことに惹かれているのかもしれません。
図版作成:青木茂樹
みな垂直構造のバリューチェーンに囚われすぎている。
——–青木先生なりに流通を捉えると、企業はどんな発想をすべきなのでしょうか。
多くの研究も企業も、現業における垂直的な取引関係の捉え方をしがちです。企業がどのように価値を生み出すかを表す「バリューチェーン」という考え方がありますが、それが自社や取引先のみの視点に囚われすぎているんですね。例えば最近よく言われるオムニチャネル。あらゆる顧客接点をつくって、購入経路をつくりだすことですが、ネットと実店舗を巻き込んで接点をつくれている会社は多くありません。ポイントやクーポンがあるから、ユニクロやマクドナルドを利用している程度です。でも例えば発想を変えて「疲れて帰路に向かうサラリーパーソンのために冷蔵庫に冷えたビールを常に置いておく状態をどうつくるか」と想像してるとすると、アップルウオッチで冷蔵庫がチェックできて、なければ配送され、冷蔵庫にあればいい。そう考えれば、さまざまな経路が考えられる。1社でできなければ、数社でジョイントベンチャーのような形をとってもいいですよね。パナソニックと大和ハウスとセコムが組んでオムニチャネル化したほうが絶対にいいサービスができるはず。今までの「流通」は、人の移動の中間にモノを並べて売っているのとさして変わりません。最終的には「人の生活の状況をつくる」競争。自社だけの垂直構造にとらわれず、クロス・バリューチェーンをもっと意識すべきだと思います。
(第4回へつづく)
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