駒澤大学経営学部教授 青木茂樹
【理論と実践のブランド論 第1回】
論文や著書、コラムなど積極的に知見を発表する一方で、自らNPOを立ち上げ、理事長として地域活性に取り組む青木氏。「NPO法人やまなしサイクルプロジェクト」のイベントは1000人以上を集める大きなうねりに成長している。その裏側には自らが提唱する「クロス・バリューチェーン」を軸とした「サステナブル・ブランディング」という確固たる理論があった。教授でありながら理論と実践を体現する青木氏に、その意図、背景、そしてブランド論についてたっぷりと話を聴いた。
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
たくさん計画して、ほとんど実行できなかった。
(編集部:まずは地域活性への興味や取り組み、NPO法人やまなしサイクルプロジェクトの話から伺った)
——–マーケティングや流通の専門からどのようにして地域活性への興味が生まれたのでしょうか。
きっかけは1999年に甲府市中心街活性化計画の委員になったことだったと思います。あの頃はまだ若かったので、よかれと思ってマーケティングのいろんな理論の話をしていたのですが、現場の人たちからは「よくわかんないなあ」という感じで煙たがれていたと思います。街の人と飲みに行っていろんな話をする中で、この人たちの熱い気持ちをどうにかしたいと思ったんですね。でもたいてい、自治体主導の地域活性化って、行政が青写真を描いて、専門家にお墨付きをもらって、それで終わってしまう。異動もあるから計画が白紙になることもある。なかなか実行されないんです。自治体の地域活性化プロジェクトにはこれまで何度も委員として参加していますが、一生懸命ファシリテーションしてつくりあげた計画が実行されないことがたくさんありました。みなさんの「やりたい!」というその気持ちをなんとか実現したい。それがNPO法人設立への原動力にもなっています。
何もない。でもサイクリストからは天国。
——–NPO法人山梨サイクルプロジェクトは山梨県を縦に貫く中部横断道の建設もきっかけになっているそうですね。
中部横断道が完成すると、山梨県の峡南地域は素通りされてしまう危険性があります。そこに危機感を頂いた行政が沿線の地域活性化プロジェクトを立ち上げたのですが、私は設立の2年後に参加しています。その中でいつも通りファシリテーションをしていたら「自転車」というキーワードが出てきました。実際、自転車を趣味にしている人たちに話を聞くと、山梨は富士山や八ヶ岳、そして春は桜や桃など、いろんな風景を楽しめるだけでなく、アップダウンが数多くあり、自転車天国なんだそうです。私の兄はサイクリストなんですが、あの笹子峠を自転車で登るんですよ(笑)!日本人に初めてツール・ド・フランスに出場した今中大介さんとも以前からご縁があり、顧問なっていただきました。行政職員のみなさんの反応もよく、自転車レースをするにあたって不可欠な各市町村の協力がとれたのも大きいですね。一見、田舎には何もないと思いがちです。でも見方を変えれば、こんなにも魅力がある。東京からも近いですし、大きな可能性を感じました。
レースで提供された地元食材を使った「こしべんと」。写真右は今中大介氏。/写真提供:やまなしサイクルプロジェクト
自転車を地域活性にどうつなげるか。
——–実際、自転車を地元の地域活性とどのようにつなげているのでしょうか。
自転車のロードレースをただやればいいのかというと、そういうわけではありません。私たちは「自転車で山梨の新たな魅力をプロデュース」することを目的としていますから、地域活性につながることをしなければ意味がありません。例えば、私たちは各市町村の特産物をつかった料理をエイドで配布しました。従来、自転車のロードレースイベントのエイドで提供されるものといえば、水やスポーツドリンク、ジェルなどが一般的でしたので、参加者からは大変喜ばれました。また、メイン会場では特産品のブースも設けました。参加者のお昼のお弁当として配布される「こしべんと」は、大塚人参、曙大豆、湯葉など山梨県峡南地区の各市町村の特産物をふんだんにつかった昔ながらのお弁当です。「田舎料理の宝石箱」との声もいただきましたよ。これを実現させるために、地元の飲食店のみなさんを巻き込んで、多大なるご協力をいただきました。行政や地元商店、自転車を愛するボランティアのみなさん。いろんな人たちを横でつなげることで、山梨の新たな魅力をたくさんの人たちに知ってほしいと思っています。
地域の特産物をエイドで提供。/写真提供:やまなしサイクルプロジェクト
(つづく)
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