経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説|ブランド シンキング

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経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説

会計学の専門家に聞く!ブランディングは企業価値にとってどのような意味がある?

ブランディングは何のためにするのでしょうか?ブランディングが企業活動の一つであり、企業活動は利益のために行われるのだとすれば、ブランディングもそのためのもの。しかし、その利益が、長期的なものなのか、短期的なものなのかで、ブランディングの内容は異なります。

また、長期的な利益を目的としてブランディングを実行するにしても、成果はどのように測定したら良いのでしょう?

財務的に評価するのか、その他のアンケート調査を組み合わせた指標で評価するのか。このように問は尽きないものの、ブランディングが企業活動である限り、関係者を説得するために成果の測定は必須ではないでしょうか。

ブランディングとは何のためにするのか?ブランディングを扱う学会でも諸説ありますので、ひとまずこの議論に対する厳密な答えではなく、全ての企業にとって、ブランディングは検討すべき事柄であることを今回はお伝えしようと思います。

そこで、”企業価値評価に資する情報を客観的に伝達する役割を担う”とされる会計学の観点から見たブランディングの意義について、専門家にお話を伺ってきました。会計は、大企業だけでなく全ての企業にとって重要だからです。

お話を聞かせてくださったのは、早稲田大学商学部にて企業価値評価を中心に会計学を教える大鹿智基先生(現在、教授)です。インタビューの内容に入る前に、先生のバックグラウンドを整理します。

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▲大鹿智基教授。早稲田大学商学部にて企業価値評価を中心に会計学を教える。

大鹿智基先生は非財務情報の専門家

企業価値の評価には、財務情報と非財務情報を用います。財務情報とは、いわゆる財務諸表で知ることのできる企業情報です。一方、非財務情報とは財務諸表に現れにくい企業情報を指します。非財務情報は多岐にわたりますが、最近ではESG(Environment=環境、Social=社会、Government=政治)というフレームワークでその多くが語られています。大鹿先生は会計学のなかでも非財務情報に詳しい教授として知られています。

なぜ非財務情報に詳しい大鹿先生に話を聞いたのか?

ブランディングの評価は、財務的なものだけでは得難いものです。なぜならブランディングの「成果」は、消費者の頭のなかに生まれるからです。

消費者の頭のなかを調査する手法は、様々に構築されてきましたが、どの手法も完璧に客観的であるとは言えません。客観性を重んじる会計学では、客観性が社会的に担保されている企業活動の情報をベースにして、ブランディングを評価してきました。

財務情報でブランディングを評価する手法の構築も進められてきました。しかし、非財務情報の公開も「統合報告書」のかたちで進展するなか、より正確にブランディングを評価するために、非財務情報も含めてブランディングを評価する手法が現在の潮流にあるようです。

そのため、非財務情報に詳しい大鹿先生にお話をうかがうことで、大企業だけでなく中小企業にも関係のある企業価値におけるブランディングの意義について、糸口をつかむことができました。

会計学的なブランドを示す「超過利潤」は非財務情報から読み取れる

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–企業価値とブランディングの関係性についてから教えていただけますか

 

大鹿 会計情報の目的は、株式投資家の役に立つ情報を提供すること。彼らにとって株価に関わる企業価値は関心事です。特にブランディングは「今」というよりも「将来の」企業価値につながることなので、ブランディングもまた関心事だといえます。

–ブランディングが将来の企業価値につながるとは、どのような意味ですか?

 

大鹿 例えば、ブランディングの結果起きるプラスのことというと、ひとつは「他社よりも高い価格で売れる」ということ。これは企業の将来に影響を及ぼします。ただし、財務情報、すなわち今の売上や利益だけ見ても、果たしてその結果が続くかどうかはわからない。ブランディングがどのように行われたのか?について知る必要があります。だから、ブランディングの評価では非財務情報が必要だと考えています。

–財務情報のみでブランド価値を評価しようとした経産省のブランド価値評価モデル(2002年)の頃とは、ブランディングの評価についてはかなり状況が変わっているようですね。

 

大鹿 経産省のブランド価値評価モデルの発表からしばらく経って、2007年頃、私も非財務情報も含んだブランド価値評価の研究会に参加しました。それまでは、正直なところ、非財務情報はデータがないから「分析できない」というような話で終わっていました。

–確かに、非財務情報というのは、「財務情報以外」というような言い方で捉えどころがありません。

 

大鹿 私は、「会計情報は投資家のため」という視点に立っています。つまり、非財務情報は、「財務情報以外の情報で、投資家の役に立つもの」だと考えています。ただ、世界の実務的には、非財務情報というのはIIRC(国際統合報告委員会)が定めたフレームワークに集約されつつあります。最近では日本でも、IIRCのフレームワークに従った統合報告書を公開する企業が多くなっています。

–非財務情報のなかで、ブランディングはどのような位置づけなのでしょうか?

 

大鹿 その話をする前に、企業価値とは何か?ということから。企業価値を決めるものの一つは純資産。もうひとつが、将来の超過利潤を現在の価値に直したもの。(注:現在の価値に直すとは、いわゆる「割引現在価値」のこと)

ブランディングは将来の利益に影響を与えるので、将来の超過利潤の現在価値で評価できる部分もあります。例えば、将来の超過利潤に影響を与える要素として考えられるのが、人事制度です。なぜなら、優れた人事制度によってモチベーション高く従業員が働くことが、超過利潤を生んでいる可能性があるからです。

「尖る」ことが超過利潤につながるartistic-2063_1280

–昨今では利益をもたらすとして「採用ブランディング」を採用する企業もあります。それでは、将来の超過利潤に影響を与えるようなブランディングとは、どのようなものだと大鹿先生は思われますか?企業がブランディングを経営判断として実行・継続必要するうえで必要な知見だと思います。

 

大鹿 ややアイデア的な話にはなりますが、「尖ること」だと思います。たとえば、「環境に優しい製品」というブランディングなら、中途半端なことはしない。環境に優しい工場で作られていることを、他社がやっていないレベルで証明するなどです。つまり、その業界において他社がやっていないことを、思いっきりやることが大切だと思います。

たとえば、環境に配慮したいという消費者なら、環境への配慮があまりなされていない製品ばかりの状況で、環境にきちんと配慮した製品があれば、そちらがいくらか高くても購入しようとするということです。それが、1割高くなのか2割高くなるのかについては個別に検証する必要がありますが。

このように、「尖ること」によって、超過利潤につながるのではないでしょうか。

–先生の研究から、「尖ること」がブランディングにおいて効果的なことについて、ご説明をお願いします。

 

鹿 たとえば、最近では租税回避とサステイナビリティについての実証研究があります。もう少し詳しく話すと、租税回避をすることが企業のサステイナビリティにどのような影響を与えるのか?という研究です。会社がなくなってしまえば将来の超過利潤はないので、サステイナビリティは企業価値と関係しています。

研究から言えそうなこととしては、長く続いてる企業は租税回避をあまりしていないだろうということです。確かに、様々な国の事情はあるものの、租税回避をあまりしていない日本企業には長く続いてる企業が多いようです。仮に創業200年以上を老舗企業とするならば、世界の老舗企業の半分以上は、日本企業です。

サステイナビリティに租税回避が影響を与えている可能性があると言えます。だとすると、将来の超過利潤に租税回避は悪影響を与えるので、逆のブランディングになるのかもしれません。一方、「納税」ということについて尖るのであれば、租税回避ばかりの業界できちんと納税することは、ブランディングにつながるかもしれません。

–ただ、租税回避をしないという選択はESGのうちGoverment(政府)の要素に「尖ること」になると思います。ESGのどれかの要素において「尖ること」は、ブランディングにおいて一貫性に欠けることになり得ませんか?

 

大鹿 確かに、環境には優しいけど、従業員には優しくない、とかおかしい感じがしますよね。だから、ESGの観点ではバランスよく、でも、方法や視点については「尖ること」が大切だと思います。ただ、これも難しいところで、中途半端に企業活動のリソースが分散すると、ブランディングが意味を持たないような気もします。

–大鹿先生の観点では、ブランディングの評価において非財務情報が有用だと思われますが、非財務情報の公開はどの程度進んでいるのでしょう?財務情報のように義務化していませんが。

 

大鹿 非財務情報の公開はかなり進んでいます。たとえば、上場企業のうち約400社が2017年段階では統合報告書を発行して非財務情報を公開しています。

–非財務情報の公開は、上場企業に限った話でしょうか?

 

大鹿 情報公開には多大なコストがかかるので「誰の、何のため?」という問題があります。非上場企業なら、投資家のためではないので。

ただ、経済学ではよく知られている「アカロフのレモン市場」という理論にもとづけば、今後公開が進む可能性はあると思います。この理論は、「レモン」とスラングでは呼ばれている粗悪な中古車が、なぜ市場で大量に出回るのか?ということを説明しています。さらに、粗悪な中古車の流通を防ぐには、どうすれば良いのかまでを理論的に導いています。

そこで、効果的とされたのが情報公開です。みんなが情報公開をすれば、粗悪品を売る人は売れなくなって淘汰される。また、情報公開は自由だとしても、情報公開しないのは粗悪品であることのシグナリングのように見なされて、結局、粗悪品は淘汰されるということです。

同様に、大企業や中小企業に限らず、消費者が非財務情報を気にする状況では、非財務情報を公開している企業が将来の超過利潤を高める状況はあり得ると思います。

これは私の研究に対する想いなのですが、私の非財務情報に関する研究で、「正直者が馬鹿を見ない」世の中づくりに貢献できたら幸いです。

(インタビュー以上)

目的のないブランディングは失敗もないが成功もない

今回は、非財務情報の観点から、企業価値とブランドの関連性について大鹿先生にお話をうかがってきました。

ブランディングは、目的があって実施される企業活動です。ブランディングのためのブランディングでは、成果の測定のしようがなく、失敗も成功もないのです。成果の測定という観点では、今回は会計的観点を取り上げました。

ブランディングの成果測定では、心理的観点がイメージされがちですが、会計的観点からのアプローチもあることが今回のインタビューでよく分かりました。ブランディングに取り組む意義の多様性が明らかになったインタビューでした。

長尾和也

 
長尾 和也

コンテンツクリエイター。トレンドとアクセス動向を踏まえた記事コンテンツを、30社以上の企業オウンドメディアにて発信。誌面では月刊文藝春秋にて無記名の観光コラムを掲載中。「世の中をもっとチャレンジングに」という思いからクラウドファンディングに関心をもち、クラウドファンディングライターとして邁進している。早稲田大学大学院商学研究科マーケティング・コミュニケーション専攻修了。修士論文は「消費者の独自性欲求」。

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