駒澤大学経営学部教授 青木茂樹
【理論と実践のブランド論 第2回】
論文や著書、コラムなど積極的に知見を発表する一方で、自らNPOを立ち上げ、理事長として地域活性に取り組む青木氏。「NPO法人やまなしサイクルプロジェクト」のイベントは1000人以上を集める大きなうねりに成長している。その裏側には自らが提唱する「クロス・バリューチェーン」を軸とした「サステナブル・ブランディング」という確固たる理論があった。教授でありながら理論と実践を体現する青木氏に、その意図、背景、そしてブランド論についてたっぷりと話を聴いた。
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
ビジョンがある。だから共感が生まれる。
(編集部:前回に引き続きやまなしサイクルプロジェクトの続きをお伺いします)
——–やまなしサイクルプロジェクトには「地域の人達と自転車乗りのふれあいや共生」というビジョンが掲げられています。
ビジョンがなければ、いろんな人を惹きつけ巻き込むことはできません。ただの趣味でやっていることと思われてしまえば、決して共感はされないでしょう。私たちはあくまで自転車を地域活性につなげていきたい。だとすると、法人の目的であるビジョンは必須だと思いました。実際、メンバーには大阪の人もいるんです。さすがに常時参加は難しいですよね。でもこのビジョンに共感してメンバーになってくれています。そういう人たちがたくさんいてくれることは本当にありがたいですね。それに大会運営はボランティアによって支えられています。一度少しでも謝金を支払おうと思ったら叱られたことがありました。「こういうことのためにやっているんじゃない!」って。たくさんの企業や自治体が協力してくれるのも、結局ビジョンに共感してくれるからだと思います。組織に「大義」は不可欠だと思います。
オリンピックのコースが山梨に!
——–ツール・ド・山梨の開催を目指されているそうですね。
これはホームページにも書いていることですが、2泊3日程度で山梨を一周まわるイベントを開いてみたいと思っています。これにはまず自治体の首長の決断がとても重要。実績を積み重ねて、ぜひ開催できるようにしていきたいですね。2020年東京オリンピックの自転車ロードレースは山梨が一部コースになる可能性が高いそうです。世界で人が観戦するスポーツの第1位がオリンピック、2位がW杯サッカー、3位が自転車競技のツール・ド・フランス(TDF)です。まさにオリンピック×TDFの掛け算が起こるのです!TDFを走った選手が東京オリンピックに出てくるという絶好の露出のチャンスです。山梨の富士山を背景に富士五湖やそこへの山道が世界に自転車への関心が高まることで、山梨を訪れる人も増えるでしょうし、世界の名だたる選手が通ったコースを自分も通ってみたいと思う人もいると思います。この流れを活かしたいですよね。どこも人口が激減し、地方経済は縮小しています。この流れはもっと加速するでしょう。今こそ利害関係を越えて、各地方自治体も企業も連携していかなければなりません。そのきっかけに、やまなしサイクルプロジェクトがなればいいな、と思っています。
やまなしサイクルプロジェクトのレース中写真。富士山を眺めながら走れる。/写真提供:やまなしサイクルプロジェクト
いい地域活性にある「クロス・バリューチェーン」実践の場。
——–自治体主導ではなく、従来の地域活性の枠を飛び越えた実践をされているように思います。
イベントをやっていると、他県から来た人たちが、「これおいしいね!」と地元のおばちゃんと話している光景があたりまえのように広がっています。それに触れた地方の人たちは本当に嬉しそうで。みんなイキイキとし始めるんです。私たちも本当に嬉しい。これがまさにビジョンの通りだし、狙いなんですから。とかく自治体も企業も、あそこには勝った、負けたと競争ばかりしたくなる。だけど、それでは縮小する地方の「小さなパイ」を食い合っているだけでしょう。これまでは地域活性は観光頼みがほとんどで、最近はDMOと言う、「ディスティネーション・マーケティング・オーガニゼーション」をどうつくるかが話題です。これまでの観光は、旅行代理店が宿泊施設と公共交通機関のがセットにするのが仕事でした。でもこれからは地域にある農林漁業や製造業や飲食業、さらに地域住民やNPOをつなげて、地域における経験価値をつくること、つまりクロス・バリューの考え方が重要になってくると思います。そのためには、地域活性のための大義に向かって、いろんな組織がヨコでつながること。価値を最大化することで、地域経済のパイを広げることにもつながるんです。やまなしサイクルプロジェクトはクロス・バリューチェーンを実践する場でもあるんです。
第3回へつづく。
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