駒澤大学経営学部教授 青木茂樹
【理論と実践のブランド論 第4回】
論文や著書、コラムなど積極的に知見を発表する一方で、自らNPOを立ち上げ、理事長として地域活性に取り組む青木氏。「NPO法人やまなしサイクルプロジェクト」のイベントは1000人以上を集める大きなうねりに成長している。その裏側には自らが提唱する「クロス・バリューチェーン」を軸とした「サステナブル・ブランディング」という確固たる理論があった。教授でありながら理論と実践を体現する青木氏に、その意図、背景、そしてブランド論についてたっぷりと話を聴いた。
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
ローカルから世界的なブランドが生まれて行く。
(編集部:企業も垂直構造ばかりのバリューチェーンではなく、ヨコのつながりも含めたクロス・バリューチェーンの発想が大事だという話でした。)
——–クロス・バリューチェーンが実践できるようになると、どのように変わっていくのでしょうか。
これまでは、結局ブランドのコミュニケーションがマスメディア中心でした。流通で捉えれば、産業革命が起きて、流通革命も起きて、例えばアメリカシカゴの新鮮な肉が西海岸でも販売できるようになりました。今はインターネットがこれだけ普及して、従来のマーケティング4Pの常識では捉えきれない事例がたくさん出てきています。小ロットでの生産が可能になり、物流はトラックできめ細かく届け先の場所を指定できます。もしかしたらこれからはドローンでの輸送が当たり前になるかもしれない。現状ではうるさすぎますけどね(笑)。これまでは、マスという大動脈にブランドを乗っけないとプロモーションできなかったけど、今はネットのおかげで毛細血管がつながるように、一気に海外にも行けます。そうなると、必ずしも大企業でなくてもブランドを生み出せる。ローカルやオーガニックがキーワードになってきて、その土地のもの活かして最大化するような農法や生産の仕組みが重要になってきます。大量にできないものから信頼を得て、有名になるブランドがどんどん生まれる可能性が出てきているということです。
グッドライフ2.0へ。価値観の変化が起きている。
——–青木教授がアカデミックプロデューサーを務める「SASTINABLE BRANDS」のサイトのコラムではアメリカの地ビールの事例が紹介されていましたね。
アメリカのマイクロ・ブルワリーは2008年まで1500店舗程度でしたが、今や4000店舗以上がひしめき合っているという状況です。2008年はリーマンショックで世界経済が落ち込んだ時。それを境に、アメリカの若者意識もエコノミーからコミュニティーへ、経済もFinancialからSocialへシフトしました。各地の都市へ散らばった人たちがはじめたのがビールづくりでした。州や市によっては醸造免許や販売免許を規制緩和しました。これで若者はパブを併設し、地元の食材しか出さないとか、太陽光などの自家発電を主電力としたり、農家はホップの栽培を始めたりしました。この流れでカリフォルニアでは2万2千人の雇用が生まれています。若者が地元を愛し、地元のことを話すようになりました。グッドライフ1.0という考え方があります。いわゆる20世紀的な物質的豊かさの世界です。今、グッドライフ2.0に多くの人たちの視点は移りつつあるんです。ゆっくりと時間を費やすこと。自分で農業をしたり、手づくりのピクルスをつくったり。Instagramの画像を分析すると日本でもこの流れが確実に来はじめています。
図版作成:青木茂樹
企業ブランドはコストセンターではない。
——–アメリカの地ビールの事例にも「クロス・バリューチェーン」があるわけですね。
アメリカのブルワリーの場合、コミュニティ・マーケットが登場したり、家庭菜園ブームが到来したり、地域に重層的な経済活動がどんどん生まれていきました。このあたりがアメリカのGDPやCPI(消費者物価指数)が上昇している要因かと考えています。サステナブル(持続可能)な地域経済モデルをつくりだそう、という行政や地域住民、起業家たちのつながりがそこにあるのです。これを企業に置き換えれば、これからの経済活動は、大量に作って、売り切って終わりではなく、ひとつのブランドを大切に育て、ヨコのつながり(クロス・バリューチェーン)で持続可能なブランドに育てていくことが重要であると考えています。そのためには、今まで以上に企業自体に大義が必要。ビジョンやミッションと呼ばれるものです。これまでは「商品ブランド」が利益を生むプロフィットセンター的な役割を担っていた一方で、「企業ブランド」というと、「コストセンター」的な意味合いがあったと思います。しかし、今後は商品を送り出す企業の社会的貢献が強く問われる時代です。広く世の中に称賛を引き起こす戦略こそ、サステナブル・ブランドへとつながるのだと思います。
(第5回へつづく)
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