経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説|ブランド シンキング

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経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説

こだわり続ける。パッと変われる。それが釜屋のDNA。#3

【長寿企業研究② 創業270年・釜屋のブランド論 第3回(最終回)】

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釜屋は創業1748年、江戸中期から続く酒蔵。代表銘柄は「力士」で1785年から続く超ロングセラーブランドだ。また近年では発泡純米酒「ゆきあわ」、ワイン酵母仕込み純米酒「ARROZ」など革新的な取り組みも行う。第13代蔵元で、代表取締役社長・小森順一氏に、永く愛され続けるブランドへのヒントを聴いた。

 

「オヤジの酒」のイメージから開放したかった。

——「ゆきあわ」や「ARROZ」はどんな想いで生まれたのでしょうか。

日本酒業界に少しずつ「このままじゃダメだ」と気づき始めた人がいて、スパークリング日本酒が出始めました。つまり新しいことをしようという人が少しずつ出てきました。それを見た時に、うちでもできるんじゃないか?と思ったんですね。技術力には自信がありました。「日本酒はオヤジの酒」という古臭いイメージをなんとかしたかった。そこでスパークリングの日本酒をもっと世の中に出すことで、そのイメージを少しでも払拭できないか、と思ったのがきっかけです。私自身が小さい頃から蔵とともに育って、醸造のことを勉強して、社長から厳しく指導を受けて、という酒蔵の「王道」を辿ってませんから、あまり日本酒はこうあるべき、というこだわりがないんです。それよりも日本酒の凝り固まった古いイメージや考えに捉われないことこそ、新しい日本酒を創り出すことにつながると思っています。「ARROZ」もまったく同じ想いです。あれはたしか2012年に開発したもの。当時は、ワイングラスで日本酒が飲まれ始めた頃。であれば、ワイン酵母で仕込んだ日本酒はどうなんだ?という発想です。

 

チャレンジの積み重ねが、永く続くということ。

——新しいことをする、ということにリスクは感じませんでしたか?

もちろん、リスクヘッジは常に考えています。「ARROZ」であれば、特殊な米は使わず、ウチが一番多く使用している美山錦と一般米。これは「力士」の金撰本醸造と同じなので、それを一部回すことにしました。またワイン酵母ですが、2種類の酵母を入手し、小さな仕込みで酵母の特性を調べ、使用する酵母を決めました。実は20年前くらいに社内でまとめられた225年史を見返すと、本当に紆余曲折の歴史だったことがわかります。戦後はまず米が手に入らなかったですし、江戸時代は火災でほぼ蔵が全焼しています。関東大震災直後のダメージも大きかったようで、銀行からなんとか資金調達して立て直したことがわかりました。釜屋の歴史は、常に危機から知恵を使って抜け出す歴史でして、そういう中で、みりんや焼酎などの製造免許もとりながら、乗り切ってきたことが伺えます。だとすれば、新しいことにチャレンジするということはもはや釜屋のDNAみたいなものなのかな、と。チャレンジしなければ、何も変わりませんからね。その積み重ねが永く続くということなのかな、と思います。

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変えずに追求するもの。柔軟に考えるべきもの。その両輪。

——そうなると、今後も広い視野であっと驚くブランド開発が期待できそうですね。

どんなものをつくるのであれ、品質にこだわって、ファンのみなさんに嘘をつかないものづくりをすべきだと考えています。例えば、関東大震災で蔵が窮地に立たされたのが1923年。しかし、1925年には宮内庁へ「力士」を納品する光栄を頂き、1927年には日本酒鑑評会で一等賞を頂き、なんとか立て直したと伝えられています。ピンチのあとにチャンスあり、じゃないですけど、そうやって窮地を跳ね返してきた歴史が、私たちのDNAだと思うんですね。それから、これまでもお話してきましたが、日本酒一本だけにこだわらず、柔軟に形を変えながら、日本酒の技術を軸にいろんな商品をつくってきました。自分たちの資産を活かし、大事なものは変えずに、柔軟な姿勢で商品を世の中に送り出す。決して広く浅くにならず、一つひとつの商品の品質を追求するというイメージです。この両輪をもっともっと追求していくことが、釜屋らしさなのかもしれません。もちろん頑なに日本酒一本で、家族だけで続いている蔵もあると思います。でも、ウチみたいな蔵があってもいいんじゃないか、って思うんです。

 

(おわり)

 

文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城

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株式会社釜屋 第13代蔵元 代表取締役社長 小森順一
慶応義塾大学環境情報学部を卒業後、物流会社で5年間修行した後釜屋に入社。専務として20代後半から経営の舵取りを行う。2011年代表取締役副社長。2014年代表取締役社長に就任。

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