経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説|ブランド シンキング

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経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説

自己満足で商売をしない。どれだけ喜んでもらえるか。#2

【長寿企業研究-太冠酒造 後編】

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創業200年が珍しくない酒の世界。その中でも創業140年の太冠酒造は比較的新しい存在だ。しかし一般の企業からすれば、100年以上続く企業は非常に稀だ。果たして長く続く要因はどこにあるのか。常にチャレンジし続ける太冠酒造株式会社取締役社長の大澤氏に、さまざまな取り組みについて話を聴いた。

 

 

長い目で見て、ファンになってくれたらいい。

——–8年前から地元山梨県で山田錦を栽培し、それを原料として使い始めたそうですね。

もともとは、知り合いづてで聴いた話でした。農家をやめてしまう人が多く、耕作放棄地が増え続けて困っているという話でした。そこで、これをうまく利用できないかと考えたんです。私が話を聴いた人が山梨県昭和町の地域活性化グループの方だったのですが、行政とも絡んでいろいろ取り組まれている方で、話がトントンと進みました。山田錦は今では一般によく知られている酒造好適米ですが、実は山梨県では栽培されていませんでした。山田錦がよく酒造りに使われるのは、それだけうまい酒ができる証拠。だったらその耕作放棄地に地元、山梨県産の山田錦を育て、酒をつくってみたいと思ったんです。行政への産地銘柄の登録もうちがやりました。また、田植えや稲刈りは次世代の子どもたちのいい経験になればと思って、地元の小学生や幼稚園生に手伝ってもらっています。手伝ってくれたお礼に甘酒をプレゼントするんです。お父さん、お母さんにはお酒を(笑)。いずれ大人になった時に太冠のことを思い出してもらえればいいと思っています。体を使った経験は必ず記憶に残りますからね。

 

等外米さえ無駄にしない「くず星」の誕生。

——–地酒といいながら、全国から山田錦を集めてつくる酒蔵が多い中で、地産地消を早い時期からやられていたんですね。

山田錦づくりは、最初は3反(約3000㎡)から始まりました。今では5町歩(50000㎡)の広さまで拡大しました。地元での米づくりは、つくり手としてはハラハラしますよ。気候でなかなか毎年同じようなお米はとれませんから。2016年は台風や秋雨前線の影響で長雨になりました。だから粒もいつもより小さい。だけど、やっぱり地元の米で酒をつくるのは、それが私たち酒蔵の使命でもあると思っているからです。だからなるべくムダを出さないように、等級がつかなかった「くず米」まで利用して酒をつくっています。それが「くず星」です。等外米を純米大吟醸規格の50%まで贅沢に削ったお酒です。等外米だと「純米大吟醸」って名乗れないんですが、丹精込めてつくることでここまでおいしくなる。「くずの星になれ」ということで命名しています。本当に信頼できる販売店に限定して、くず星の純米無濾過生原酒を出しています。新宿伊勢丹ではくず星の火入れバージョンを売っています。ただウチの歴史でいえば、昔から等外米での取り組みは続けてきましたよ。普通酒もやってきたし、甘酒をつくったりね。

BRANDTHINKING171009-1-12取材当日は酒蔵の仕事始め。蔵人もこの日の朝到着。神事が行われた。

 

ものづくりの基本はお客様に喜んでもらうこと。

——–今でこそいろんな酒蔵が新しい試みをしていますが、太冠酒造さんはその流れが来る前からいろんなチャレンジを繰り返していますね。

以前はワイン酵母で日本酒をつくったり、酒粕でサプリメントをつくったりもしましたよ。ワインは山梨の名産ですからね。今また山梨のワインが海外から評価されて注目されているから、やってみたらおもしろいかもしれない。実は海外向けに低アルコールの日本酒を実験しているところです。まだまだですけどね。太冠は140年続いているけど、日本酒の業界では新しい。伝統も大切にするけど、こだわりすぎちゃいけないな、というのはいつも心のなかにあるんです。私はもともと自動車の内装を設計するエンジニアでした。そこから家を継ぐために戻ってきたのですが、まったくの異業種ですけど、ものづくりの基本って変わらないと思うんです。共通点は、お客様に喜んでもらえるものをいかにつくれるか、ということ。商売はマスターベーションじゃないですから。そのためなら、海外だってどこだって出ていって、またいい酒を造るだけですよ(笑)。

 

聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:大堀力

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大澤慶暢 Yoshinobu Osawa
太冠酒造株式会社 取締役社長
東海大学理工学部航空宇宙学科卒。当初は自動車の設計に関わるエンジニアとして働く。30代前半の頃、蔵元として太冠酒造へ入社。5代目蔵元となる。8年前から山梨県で初めて山田錦を地元農家と一緒に栽培し、産地銘柄の登録まで行う。米づくりから関わる酒造りを一貫して進めてきた。近年はアジア地域を中心に積極的に海外への販売を行っている。

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