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みんなの気持ちの集大成が、ブランドをつくっていく。

エステー エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター 鹿毛康司

【ブランドは愛だ! 第2回】

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エステーといえば、「消臭力」や「米唐番」など、話題の商品を次々と投入し、独自のブランディングを築き上げている企業だ。またCM好感度調査では常に上位にランクインするユニークなCMをつくる企業でもある。「大手企業よりもCMに投下できる予算は遥かに少ない」と言う鹿毛氏。それでもなぜ話題のCMを産み出し、さらには独自のブランディングをし続けることができるのか。戦略からコミュニケーションさらにはクリエイティブまでを統括する日本で唯一の存在とも言える鹿毛氏に、BRAND THINKING編集長・深澤が「ブランドとは何か」を聴いた。

 

戦略なんかどんどん変わる。フレームで考えるな。

(編集部:前回ターゲットという言葉の議論で終わった対談。戦略とは何か、という話が展開していきます)

深澤:エステーにおいてブランド戦略というと、どのように、どのくらいのスパンで決めていくのでしょうか。

鹿毛:フレーム論?本質のブランド論?会社だから戦略は長中短期と作りますが、ただ実際にはどんどん変わりますよ。ブランド戦略を立てても、それで例えば3年ごとに戦略を立てて、それを実行するってナンセンスじゃない?セブンイレブンの元会長の鈴木さんなんて、朝言ったことを、夕方には変えたじゃない。そうやって常に変化していくのが戦略だと思いますよね。

深澤:ということは、絶えずお客様のことを考え続けるってことですよね。

鹿毛:ある雑誌のインタビューアーとして、ソニーのウォークマンを開発した元ソニーの大曽根さんにお会いしたことがあります。大曽根さんは技術者なんです。そこでの話は大人の事情で言えないのですが、ただ一つだけ。口癖のように大曽根さんは何を話すにしても「客が喜ぶにはね」、「客はこのサイズがね」とかお客様のことばかり口にされてたんですよ。それはすごいと思いましたね。ああ、こうやって世界を驚かせるウォークマンが開発されたんだって。

深澤:世界を変えましたものね。

鹿毛:日本の代表ブランドを作った人って、お客様のことをちゃんと考えてた人なんじゃないかなあ。本田宗一郎さんだって、技術研究所をつくった時、「あそこは技術を研究するところじゃない。人を研究するところだ」みたいなことを言ってましたよね。まだマーケティングだとかフレームワークだとか、そういった理屈が世の中に確立してない時でも、ブランドは作られてますよね。最近、危ない人がいて、フレームワークとかマーケティング理論とか、そもそもずっと昔から存在してると思ってるんですよね。それに沿ってやることが仕事だと、思い込んでいる人がいますよね。

深澤:フレームや理論だけではダメだということでしょうか。

鹿毛:組織の下位の層の人であればまあ良いのでしょうけど、勝負に出るべき人は、そういうものをなぞるだけでは成功にはつながらないでしょうね。それで成功するんだったら誰だって成功するわけで、どこか理論から超えた「勘」のようなものさえも使わなきゃいけないと思います。そもそもフレームワークを作ったマイケルポーターとかマーケティング学者も、そういう勘の良い人、成功しているところに出向いて、あーこういう考え方なんだと、そうやってヒントになりそうなものが理論なわけですから。

深澤:そういう事実からフレームができていったんですね。

 

東日本大震災後の対応で見えた差。

深澤:お客様にどうしたら喜んでもらえるか。それが原点なんですね。

鹿毛:2011年に東日本大震災が起きたでしょう。あの時、どの企業も一度営業が止まったんだよね。CMは軒並みACに差し替えられた。でもね、本当にお客様のことを考えて動いた会社と寄付だけしてカタチだけ動いたふりした会社と別れましたよね、あの時。

深澤:といいますと?

鹿毛:例えばIBMは何したと思います?「今、サーバーの足りていないところはないですか?」と広告を打って、届けているんですよ。ディズニーランドも、社員総出で、毛布を出して、食事を提供した。お客様のためにとか、ウォルト・ディズニーの理念とかがちゃんと現場にまで浸透しているからこそできたことなんだと思う。

深澤:ディズニーはそのあとCMを打ちましたよね。

鹿毛:正確には忘れたけど「夢をお届けする国を準備しています」というナレーションの。これは簡単そうだけどものすごいことですよ。お客様のことを考えている社員がそこにいないと、こんなCMは作れない。勝手な想像だけど。今までの夢を訴求していた企業が、こんなCMを作ったんだから。トヨタはプリウスを走らせて、「通れる道マップ」をネットで提供していきましたよね。日々、お客様のことを考えているから、瞬時にそれができるんです。手法で考えている人たちには急にこんなことできないですよ。だからこそIBMだとかディズニーだとかトヨタという「ブランド」が世の中にしっかりと生きているんじゃないですかね。

深澤:消臭力は震災後で日本で初めて商品CMを作り放送したことで有名ですが。

鹿毛:今お話した企業の活動から比べたら、口にするのも恥ずかしいですが。震災で、消臭力をつくっている福島の「いわき工場」も停止していた。CMも日本から消えましたよね。「エステーって何を喜ばれたんだろう」、「エステーってどうして存在しているんだろう」って、そんなことを考えながらツイッター見てたら、なんか当たり前の答えにたどり着いたんです。ああ、消臭力で喜ばれてる会社だって。なんかバカバカしいコマーシャルをいつも流して、みんなが笑ってくれているブランドだって。みんなエステーに期待しているのは、震災復興の応援メッセージでもないし、そんなことじゃないって。いつものバカバカしいCMで笑って、日常に戻りたいって。そんな心の声があのツイッターに流れていたような気がしました。それも東北の人たちの方が。怖かったですが、2週間でCMを作って4月には放送をスタートしました。

深澤:あの外国の少年がラララと歌うCM、西川貴教さんが登場してきて、結果、CM好感度1位になったわけですよね。ただ問題もあったということですが。

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どんな愛情を込めるか考えないとすぐに見破られる。

鹿毛:「商品が満足に供給できないのにCMを打つのは何事だ」という社内の声もありましたね。ただ当時社長だった鈴木会長が『志ですな。エステーの感謝を示しなさい』と。企業って企業人格がありますよね。トップは企業人格そのもので、このCMはブランディングそのもの。そして好感度1位なんて想像もしてなかったわけですが、いつのまにか「このCMの背景はポルトガルリスボンで地震と津波で6万人が亡くなった場所、それを背景に応援してるんですって」みたいな声がネットやらでどんどん広がっていって、それが日本で1番のCMにつながっていくんです。企業とお客様が一緒にブランドを作ったという事例だと思います。みんなの気持ちの集大成がブランドをつくるんだと思いました。

深澤:まさに、ですね。ブランドってみんなの愛情みたいなものが必要なんですね。

鹿毛:ひとりのお母さんが愛情たっぷりの料理を子供に作りますよね。でももしも5人お母さんがいたらどうなるだろうと話したことがあります。買い物担当、切る担当、煮付け担当、盛り付け担当、運ぶ担当のお母さんがいるとします。買い物はなるべく安くと思えば、季節感は当然なくなってくる。なるべく早くと、切るお母さんは、体調に合わせて食べやすく切るというのはなくなる。煮付けのお母さんは、子供の体調考えず、味を薄くするとか、濃くするとかはなくなって、均一になる。盛り付けのお母さんは、決してハートマークの盛り付けはしないでしょう。出すお母さんは「どうせ自分はつくってないよ」と思いつつひとまず「お食べ」と笑顔で出す。さあ、何が足りない?って、愛情ですよ。みんなでつくるのがブランディングなのに。それを忘れて単なる手法になっちゃうと、5人のお母さんみたいに、愛情がものすごく欠けたものができちゃうんだと思います。だからブランディングは、企業側がどんな愛情を込めるかをちゃんと考えてやらないと、お客様にはすぐに見破られると思っています。そういうことがブランディングじゃないかなと思っています。

 

第4回「消臭力は、遊べるブランドを目指してきた。

第3回「人の心の奥底にある何かを見つけないと、いいクリエイティブはつくれない」

第1回「ブランドを、理論とかフレームワークだけで語るな」

 

聴き手:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城

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鹿毛康司
エステー株式会社 執行役
エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター

早稲田大学商学部卒業後、雪印乳業(現・雪印メグミルク)へ入社。1993年、ドレクセル大学にてMBA取得。2003年、エステーへ。執行役クリエイティブ・ディレクターとしてエステーのコミュニケーションを統括。戦略立案から作詞作曲、CM監督までも手がける。同業他社の予算の1/5ほどの中、次々とCM好感度上位を獲得。2011年8月には消臭力のCMが好感度日本1位に。全日本CM放送連盟(ACC)ゴールド受賞。グロービス経営大学院准教授。




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